支えることが、私達の使命です。

トップページ > 熱性けいれん


熱性けいれん

                    内容

熱性けいれんQ&A集
はじめに
熱性外連のイメージの変遷
熱性けいれんとは
  3大要素
    体温
    体質、遺伝
     <環境要因:体質と熱の相互作用>
    年齢
  頻度
繰り返すの3分の1だけ
発作症状:単純型熱性けいれんと複雑型熱性けいれん
てんかんになりやすい?
熱性けいれんがかん益する2つの例外的病態
  片側けいれん-片麻痺-てんかん症候群(HHE症候群)
  未解決の問題ー熱性けいれん重積発作都内側側頭葉硬化てんかん
熱性けいれんの生命予後、知能予後
検査
  細菌性髄膜炎の除外
  脳波
  画像検査
  血液検査
  迅速検査
治療
  急性期治療
  再発防止
    <抗てんかん薬の連日服用>
    <発熱時抗てんかん薬脂溶による再発防止?
予防接種
最後に.......
文献


生後
3ヶ月から5歳の乳幼児によくみられる、頭蓋内感染などのけいれん誘発性疾患を原因としない、発熱をともなう発作。無熱性けいれんの既往のある子どもに発熱にともなってけいれんがみられても熱性けいれんとはいわない」

                                              アメリカ国立衛生研究所(NIH)合意会議(1980)による熱性けいれんの定義

▲このページの一番上へ戻る

熱性けいれんQ&A集

質問

答え

熱性けいれんとは何ですか?

 乳幼児のお子さんによくみられる熱をともなうけいれんのことです。
  けいれんの多くは発熱後24時間以内にみられ、ほとんどが、数十秒で終わってしまいます。ただし、まれに、20分以上続くことがあります。 
 日本では熱性けいれんは乳幼児期のお子さんの100人のうち数人が1回は経験する、きわめてありふれた疾患です。
 熱性けいれんによって,死亡することも,後遺症を残すことも、まず、ありません.
 将来,てんかんになる可能性も低く、なるとしても100人に5人程度です. 

熱にともなってけいれんがみられても熱性けいれんとはいわない病気にはどんなものがありますか 脳炎、細菌性髄膜炎といった中枢神経感染症、あるいは、発熱をともなう下痢や嘔吐で脱水になったり、塩分バランスが崩れておきるけいれんは熱性けいれんとはいいません。また、てんかんのお子さんが発熱してけいれんを起こした場合も熱性けいれんとは考えません。
熱性けいれんの熱にはなにか特徴がありますか? 多くが高熱です。39度C以上の高熱が特徴の突発性発疹症では熱性けいれんが起きやすいことが知られています。しかし、けいれんの引き金となるのが熱の高さなのか、熱の上昇スピードなのか、まだ、よくわかっていません。

熱性けいれんではどんな症状がみられますか?

 熱性けいれんがおきると、意識を失い、反応しなくなります。体をこわばらせ、四肢をふるわせます。吐いたり、失禁したりすることもあります。たいてい、けいれん症状は左右対称です。しかし、まれに、左右いずれか一方の症状が強いことがあります。また、発作前、一瞬、ボーッとしていることもあります。
 けいれんが止まった後、数十分、ボンヤリして、おかしな動作をすることが、ときとしてみられます。しかし、そうした異常運動の多くは発作後のもうろう状態によるもので、けいれんとは別物です。

けいれんの時、やるべきこと、やるべきでないことを教えて下さい。

 とにかく、落ち着いて下さい。首が締めつけられないよう服をゆるめ、安全な場所に 顔を横にして寝かせてあげてください.できれば,時刻を確認し,発作の始まりから終わりまでの時間と発作の症状を書きとめてください
 強く抱きしめたり、押さえつけたりして、けいれんを止めようとは考えないでください。けいれんは力ずくで止まるものではありません。
 舌を咬むのを恐れて口に何か突っ込むようなことはしないで下さい。舌を咬むのは発作の始まりのときがほとんどです。発作が始まってしばらくしてから何かしても手遅れです。逆に、口の中を傷つける恐れがあります。

熱は下げるべきですか?

 発作がおさまったら、まずは、熱を下げることを考えましょう。熱を下げる座薬(アセトアミノフェン系:アンヒバ、アルピニー、カロナールなど)が手元にあれば、おしりに入れてあげて下さい。ただし、解熱剤は発熱からくる不快感,食欲低下などの軽減には有効ですが,けいれんにたいする予防効果はなく、発作の再発をおさえることはできません。

熱性けいれんでは起こらない、といえることは、どんなことですか?

 短いけいれん(10分以内)で死亡したり、脳が傷ついたりすることは、まず、ありません。熱性けいれんが原因で、てんかんになったり、知能が低下したり、学業が不振に陥ることもほとんどありません。

熱がでると、また、ひきつけるのですか?

 3分の2のお子さんは2度と発作を起こしません.熱をだしたとき再び発作を起こすのは3人に1人のお子さんだけです。3回目の発作を起こすお子さんはもっと少なく、10人に1人です。
 家族のどなたかに熱性けいれんの既往があるとき、熱性けいれんの発症が1歳未満のとき、38.9℃以下で熱性けいれんが起きたとき、熱性けいれん再発の確率が高いといわれています

どのようなとき、病院にかかるべきですか?
救急車を呼んだり、救急外来に連れて行ったりすべきなのは、どんなときですか?

 はじめて熱性けいれんが起きたときはすぐに医療機関に受診して下さい。
  時計を確認し、けいれんが3分以上続けば、救急車を呼んで下さい。
  発作の前後に吐き気、嘔吐、発疹、振戦、異常運動、ふらつきなどの協調運動障害、傾眠傾向、異常興奮、錯乱状態などがみられたり、目つきがおかしかったりしたら、発作がすぐに止まっても、医療機関に相談するか、救急外来を受診して下さい。

どのような検査が行われるのですか?  どのような感染症が原因となって発熱したのか確認するためにのどや鼻の粘膜の拭い液を調べたり、血液や尿やの検査をすることがあります。脳波、頭部CT、腰椎穿刺などの精密検査は必須ではありません。

熱性けいれんによってどんなことが懸念されるのでしょう?

 けいれんにともなう転落や衝突による外傷。
 口に入っていたものによる窒息。
 長引く発作による脳損傷
 発作の治療、予防(もし、処方されていれば)のための薬による副作用。
 発熱の原因が細菌性髄膜炎や脳炎のような重症感染症であれば、その後遺症。
 発熱を伴わないけいれん(てんかん)への移行。
 保護者の方が必要以上に心配され、お子さんの行動、生活が制限されること。

けいれんを予防する座薬をもらいました。どんなとき役に立つのですか?

 お渡ししたダイアップ座薬を発熱に気づいたときにお尻にいれると、ある程度、けいれんが予防できます。しかし,発熱に気づかないことがよくあるので、ダイアップ座薬をもっているからといって、絶対にけいれんが予防できるわけではありません。発作を長引かせないようにするためのものと考えて下さい。
 この座薬を使うと、動きが鈍くなったり,眠気やふらつきがみられたりすることがあるので、ご注意ください。

予防接種をやってはいけないのですか?

 熱性けいれんがあっても予防接種はうけて下さい。予防接種によって生ずる発熱によって熱性けいれんが再発する可能性があることは事実です。しかし、頻度は高くありません。さらには、予防すべき感染症の発熱によって再発する可能性もあります。予防すべき感染症の症状が重いことを考えると、予防接種は積極的に行うべきです。たしかに、余簿接種によって脳症が起こることはありますが、きわめてまれですし、熱性けいれんの既往があるからといって起こりやすいわけでもありません。

(文献8 改変)

                                             
▲このページの一番上へ戻る

はじめに

 熱性けいれんは救急外来でよくみかける疾患です。
 突然のひきつけを目の当たりにし、ご家族は大慌てでお子さんを救急外来に連れてこられます。救急車でやってみえるかたも少なくありません。
 しかし、病院に着く頃には、たいてい、ひきつけ(けいれん)は止まっています。
 けいれんを起こしたご本人はぼんやりしているか、眠ってしまっていることがほとんです。顔色はまずまずで、呼吸、脈拍も安定していて、多くは、何の処置も要しません。「心配いりません」とお話し、家に帰っていただくことがほとんどです。
 実際、熱性けいれんの多くは、なんの心配もいりません。そして、将来にわたっても、心配する必要がありません。
 しかし、高い熱をだし、意識を失い、白目をむいてひきつけた我が子の姿が脳裏に焼きつき「心配いりません」とはいかない親御さんもみえます。うちの子は体が弱く、すぐに病気になってしまう、頭が悪くなるかもしれない、などと必要以上に心配される方が、まれに、みえます。
 「脆弱児症候群」と呼ばれる状態に陥ってしまう例も報告されています。親御さんの過剰反応によってお子さんの行動にさまざまな異常がみられるようになるのです。そこまでいかないまでも、けいれんをおそれて、お子さんの行動を制限してしまう親御さんが、時に、みえます。
 その一方で、心配のあまり、親御さんが消化不良、食欲不振に陥り、体調不良を訴えられることもあります。けいれんが起こるのではないかと絶えずビクビクし、ちょっとしたお子さんの発熱にも不安になってしまわれる方もみえます。そのために、家庭内がギクシャクすることさえあります。

▲このページの一番上へ戻る


熱性けいれんのイメージの変遷

 熱性けいれんを過度に心配される親御さんがみえるのは、無理からぬところがあります。けいれんの症状は激烈ですし、その上、高熱を発しているのですから、どうしても、不吉な印象をうけます。
 それに、歴史的にみても、熱性けいれんはあまりいいイメージではみられてきませんでした。
 ほんの半世紀前まで、熱性けいれんをたちの悪い疾患とみる考えがあったのです。
 その原因のひとつは、熱性けいれんとてんかんの混同でした。
 熱性けいれん、とくに、後で述べます、複雑型熱性けいれんは、熱によって「仮面がはがれたunmasked」てんかんだという主張が医者の間でもなされていました(Livingston 1954)。熱性けいれんは正常な子どもには起こりえないと断言する研究者までいました。
 脳炎、細菌性髄膜炎といった中枢神経感染症と混同視されたことも、熱性けいれんのイメージを悪くしました。細菌性髄膜炎や脳炎では発熱に加え、けいれんがみられることが少なくありません。しかし、熱性けいれんと違い、細菌性髄膜炎や脳炎では脳の実質が破壊され、ひどい後遺症を残すことがまれならずみられます。死に至ることもめずらしくありません。そうした疾患と一緒くたにされたため、熱性けいれんに「怖い病気」というイメージが付着したのです。
 しかし、当時の診療技術を考えると、それも,無理からぬことでした。
 ほんの数十年前まで、小さな子の細菌性髄膜炎や脳炎や電解質異常を的確に診断する技術はありませんでした。まだ、CTもMRIもない時代です。小さな子供の背中に針を刺して、髄液をとって,髄膜炎を診断するなどということも、行われていませんでした。その上、小さな子には点滴をすることもできず、細菌性髄膜炎が疑われても、血管内に抗生物質を投与するという、今ならどうということもない治療も、当時は行われていませんでした。
 ほんの数十年前まで、脱水で小さな赤ちゃんがバタバタと息を引き取っていくのに、なすすべもなくみているしかない時代が続いていました。腸にたちの悪い細菌やウイルスが感染し、発熱し,ひどい下痢を繰り返し、なんども吐いて、身体の中の塩分のバランスがむちゃくちゃになって、ひきつけ、亡くなるお子さんが少なからずみえたのです。そうした場合も「熱性けいれん」で死んだとみなされました。
 しかし、そうした時代にあっても、「熱性けいれん」はそれほど悪性のものではないと考えている医者も少なからずいました。熱でひきつける子の多くは、発作がすぐに止まり、発作の後は比較的元気で、熱が下がってしまえばケロッとしていることを、医者の多くが経験で知っていました。1回や2回熱性けいれんを起こしても、その後の発達に問題を生じない子がほとんどだということもわかっていました。熱性けいれんをおこしながらも,その後、順調に成長し、普通に暮らしている大人が、いくらでもいました。
 そうしたなか、1970年代に決定的に潮流が変わります。
 それまで暗いイメージをもたらしてきた疾患を除外して熱性けいれんを見直す研究が、欧米を中心に世界中で行なわれたのです。
 その代表が、アメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health NIH)が行った周生期共同全国調査National Collaborative Perinatal Project です。55000人という膨大の数のアメリカ国内の赤ちゃんを、生まれる前から7歳までさまざまな側面から追跡調査した巨大研究です。小児のさまざまな病気について研究が行われましたが、そのひとつが、1706人の熱性けいれんをおこした子どもにかんする検討でした。
 この研究において重要な出発点となったのは、熱性けいれんの定義です。
 「生後3ヶ月から5歳の乳幼児によくみられる、頭蓋内感染などのけいれん誘発性疾患が原因ではない、発熱をともなう発作。無熱性けいれんの既往のある子どもに発熱にともなってけいれんがみられても、熱性けいれんとはいわない」
 これは、1980年におこなわれたNIH主催の熱性けいれんにかんする会議で合意された熱性けいれんの定義ですが、「熱性けいれんを起こした1706例」というのは、このように定義された熱性けいれんを起こした子どもたちでした。つまり、いままで述べてきた予後不良な疾患を除外して「純粋な」熱性けいれんが対象とされたのです。
 この研究のもう一つ大事な点は「普通のこども」を対象としたことです。調査対象はアメリカ全体の子どもを代表するよう、人種、性別などを考慮して選ばれました。一般住民を対象とした地域研究population-based studyだったのです。それ以前の研究というのは、大学病院などの大病院を受診した患者さんで行われることがほとんどでした。そうした病院にやってくる患者さんというのは、どうしても偏りがあります。同じ病気でも重い症状の患者さんが集まってしまいがちです。しかし、病気の本当の姿を知るためには、そうした偏りがない、一般の人々を対象とした研究が必要です。このNIHの研究は一般住民を対象とした代表的地域研究でした。
 このNIHの研究によって熱性けいれんについてさまざまなことが明らかになりました。しかし、なんといっても最大の成果は、熱性けいれんの暗いイメージが完全に払拭されたことです。熱性けいれんを起こしたからといって、必ずしもてんかんの前触れではないし、知能が遅れることもない。そのことを、この研究ははっきりと示していました。その後、カナダ、英国、スウェーデン、フィンランド、台湾でも一般住民を対象とした熱性けいれんの研究が行われましたが、大筋において、NIHと同じような結果が得られています。熱性けいれんはその激烈な症状にもかかわらず,あまり心配する必要のない病気であるという点で、それらの研究は一致していたのです。
 こうした地域研究の結果は動物実験によっても確証されています。短時間の熱性けいれんが起きただけの幼弱ラットは、その後、どれだけ観察を続けても、てんかんを起こしやすくなることもありませんし、脳の異常もきたしません。逆に、もともと、脳に異常があったラットは短時間の熱性けいれんであっても、その後、てんかん発作を起こしやすくなりますし、熱性けいれんによって神経細胞の異常をきたします。熱性けいれんそのものは無害であることが、ラットにおいても証明さました。
 以下には、熱性けいれんが、いかにたちのよいものかということを中心に述べたいと思います。

▲このページの一番上へ戻る


熱性けいれんとは

 しかし、その前に、熱性けいれんとは何か,あらましを確認しておきましょう。
 いままでお話してきたように、熱性けいれんは「生後3ヶ月から5歳の乳幼児によくみられる、頭蓋内感染などのけいれん誘発性疾患が原因ではない、発熱をともなう発作」と定義されています。ここでいう発作とは、脳内の異常電流に起因する発作、すなわち、てんかん発作のことです。
 てんかん発作が主症状ですから、ある意味で、てんかんと同一といってもいい疾患です。
 ですが、さまざまな理由から、熱性けいれんはてんかんとは別ものとして扱われます。
 まず、なによりも、熱性けいれんでは必ず熱にともなっててんかん発作がおきます。これに対し、てんかんは「何の誘因もなく」てんかん発作がくり返される病態をいいます。
 ただし、てんかんの患者さんでも、ときとして、発熱にともなったてんかん発作が起きることがあります。風邪をひいて熱がでて、てんかん発作が再発したり、発作がひどくなったりするてんかんの患者さんが、ときどきみえます。しかし、熱性けいれんと違い、てんかんの患者さんでは熱がないときにも発作が起きます。熱で誘発されることはあっても、通常、てんかん患者さんのてんかん発作は「何の誘因もなく」おきます。これに対し、熱性けいれんではてんかん発作にかならず発熱が付随しています。熱もないのにてんかん発作が一度でも起きたら、それは、もはや熱性けいれんではありません。てんかんです。熱という誘発因子がつねにつきまとっているというのが熱性けいれんの絶対的条件です。「無熱性けいれんの既往のある子どもにみられる発熱にともなうけいれん」,すなわち、てんかんのお子さんのけいれんは、はじめから熱性けいれんから除外されます。
 しかし、これでは、たんなる現象上の定義で、このように定義したからといって熱性けいれんを一つの疾患といえるのかと疑問に思われる方もみえるかもしれません。
 たしかに、熱性けいれんは一つの疾患といえない面があります。
 しかし、熱をともなうけいれんがみられたお子さんたちを集めてみると、いろんな共通点があることも事実です。
 熱にともなうけいれんは、ほとんどが、乳幼児期に限定され、学童期以降はみられなくなります。さらに、熱性けいれんには家族内発症が認められます。熱性けいれんを起こしたお子さんのご家族には熱性けいれんの既往がある方が多いのです。一つの原因による病気とは断言できないものの、どうやら、熱性けいれんはひとくくりにして考えてもよさそうなのです。姿形が似ている病気の集まりを症候群といいますが、熱性けいれんは、その意味では、症候群といってもいいでしょう。
 ひとつの原因による病気とは言えないと申しましたが、これには2つの意味が含まれます。
 ひとつは、こうした熱性けいれんの定義にもかかわらず、てんかんの患者さんが紛れ込んでしまうことです。そして、もうひとつは、そうしたてんかんの患者さんを除外しても、熱性けいれんの病因が、症状、経過、予後は似ていても、異なっているということです。
 てんかんを除外したといっておきながら,混乱を招くような物言いで、申し訳ないのですが、じつは、熱性けいれんの中にはどうしてもてんかんのお子さんが紛れ込んでしまいます。てんかんをもったお子さんの最初の発作が発熱によって誘発されたものだったということが起こりうるからです。
 その代表的な例が、重症乳児ミオクロニーてんかんというてんかん症候群です。
 重症乳児ミオクロニーてんかんは1歳前の赤ちゃんに発症するきわめて難治なてんかんですが、最初の発作は発熱にともなうけいれんであることが少なくありません。発熱をともなう最初のけいれんは、右半身あるいは左半身優位であったり、いつまでも止まらないけいれん重積であったり,38度前後と熱がさほど高くなかったりと,普通の熱性けいれんとは様相が異なります。しかし「生後3ヶ月から5歳の乳幼児によくみられる、頭蓋内感染などのけいれん誘発性疾患が原因ではない、発熱をともなう発作」という定義には合致します。ですから、まずは、熱性けいれんの診断がなされます。もちろん、2回、3回とけいれんを繰り返すうちに、熱性けいれんではないことが明らかになります。熱もないのに、ほとんど毎日のように、全身けいれん、ミオクロニー発作、複雑部分発作が起こるようになるからです。まぎれもない、てんかんです。その上、「熱性けいれん」を起こすまでまでは何ともなかったのに、運動の遅れ、知的遅れもみられるようになります。遺伝子解析をすると8割近くで神経細胞の興奮性に関与するSCN1A遺伝子という遺伝子に変異がみつかります。しかし、熱性けいれんの中にはこうした重症乳児ミオクロニーてんかんのようなてんかんが紛れ込むのを避けることができません。
 さらに、こうしたてんかんを除外しても、熱性けいれんはひとつの疾患と言えない面があります。それを端的に示すのが、熱性けいれんの遺伝です。のちほどもう少し詳しく述べますが、熱性けいれんはさまざまな遺伝子異常に関連して発症することがわかっています。
 結局、NIHの定義によって姿形は似ているものだけを取り上げても、熱性けいれんの原因はさまざまで、いろんな病気の集まりである、というのが現時点での考え方です。

▲このページの一番上へ戻る

3大要素

 熱性けいれんは欠くべからざる3つの要素から成り立っています。熱、体質、そして、年齢です。この3つに注目すると、熱性けいれんが理解しやすくなります。 

体温
 体温は、時間帯、食事、測定部位など、さまざまな要因で変動します。
 活発に動く昼間の方が体温は高いですし、肉をたべると体温が0.3度ぐらいあがります。また、脇の下の温度(腋下温)は,口腔内の温度、肛門内の温度(直腸温)に比べ、低めです。
 こうした不確定要素があるからでしょう、何度以上の体温でけいれんを起こせば熱性けいれんといえるか、きちんと書かれていない熱性けいれんの定義もあります。しかし、ここでは38.3度以上を発熱とみなしているShinnarたちの定義に従うことにします。しかし、この値は直腸温、口腔温測定が一般家庭の間でも広まっている欧米での定義ですので、日本で一般的な腋下温であれば、体温が38℃以上ならば「熱がある」と考えていただいていいだろうと思います。
 ただし、発作が起きたときの体温が38℃以上でなければ熱性けいれんとはいえない、というわけではありません。発作が起きる前後、いずれかの時点で,体温が38度以上あればいいということになっています。発作が起こっている最中、熱がさほど高くなくてもかまいません。だいいち、慌てていて、よほどの高熱でないかぎり、熱に気づかないことがあります。発作後、数時間して熱に気づかれることは、熱性けいれんではよくあることです。定義において「発熱に起因する発作」といった熱と発作を直接結びつける表現ではなく「発熱にともなう発作」とややあいまいな表現になっているのは、そのためです。
 発熱したら、すぐに、発作を起こすというわけでもありません。発熱後1時間以内にけいれんが起きるのはせいぜい2割程度です。24時間以上たってからけいれんを起こすことも2割程度みられます。あとの6割は、発熱後1時間から24時間にけいれんが起きます。
 熱をだす病気というと、日本では夏かぜとインフルエンザなどの冬のかぜが思い浮かびます。実際、日本で熱性けいれんが起こりやすいのは夏と冬です。しかし、熱性けいれんのこの季節性は万国共通ではありません。たとえば、スウェーデンでは夏休暇が終わり、乳幼児が託児所や保育園に戻ってくる秋に熱性けいれんが多いようです(ちなみに、託児所や保育園に通っているお子さんは感染症にかかりやすいため、熱性けいれんにもなりやすいことが知られています。ただし,人口密度の高い大都会では、そういったところに行かなくても感染症にかかりやすいので、託児所や保育園に通っているお子さんと通っていないお子さんの間で熱性けいれんの頻度にはっきりした違いはみられません)。
 発熱を起こす疾患別でみると、いわゆる胃腸カゼ(胃腸炎)では熱性けいれんが起こりにくいことがわかっています。理由はわかっていません。
 一方、突発性発疹症(突発疹)は熱性けいれんを引き起こす感染症として有名です。初発熱性けいれんの約4分の1は突発疹の発熱が原因です。とくに、2歳以下では、初発熱性けいれんの3分の1で突発疹の発熱が引き金になっています。突発疹の原因となるヘルペス族ウイルス、HHV-6とHHV-7は神経に親和性があります。そのことが、熱性けいれんを起こしやすいことと何か関係があるのかもしれません(赤ちゃんが最初に高熱を出す疾患が突発疹だから、という説明もなされています)。突発疹の原因となるこれらヘルペスウイルスは、15分以上続く遷延性熱性けいれんの主要原因でもあります。
 このように、発熱をきたす疾患によって熱性けいれんの起こりやすさは違います。このことは、熱そのものはけいれんの直接の原因ではない可能性を示しているようにもみえます。実際、先ほど述べたように、けいれんの直前にはほとんど発熱していなかったという熱性けいれんの例が結構あります。
 しかし、では、発熱以外の何がけいれんの誘因になっているのかというと、まだ、よくわかっていません。
 ただ、研究者が目星をつけているものが、いくつか、あります。
 そのひとつが、インターロイキンです。
 インターロイキンは白血球が産生するタンパク質で、外敵から身を守る免疫反応において、さまざまな手助けをします。20種類以上のインターロイキンが知られていますが、熱性けいれんとの関連が注目されているのは、そのうちの、インターロイキン‐1β(Interleukin-1β(IL-1β)という物質です。IL-1βは、細菌感染やウイルス感染のときに白血球から放出される炎症性タンパク質で、微生物を体内から駆逐するためのさまざまな機能を発揮します。そうした機能のうちでも、脳の中央に位置する視床下部の体温中枢を刺激し、体温を高める作用がなんといっても重要です。発熱を誘発することから内因性発熱物質とも呼ばれています。ヒトは主としてIL-1βを介して発熱することがわかっています。前に述べましたように、熱性けいれんでは、けいれん時の体温ではなく、発熱期間中の最高体温がけいれんを起こすかどうかの鍵を握っています。このことは、発熱をきたすIL-1βの量が多ければ多いほどけいれんが起きやすいことを暗示しているのかもしれません。
 IL-1βは、直接、神経の興奮性も高めます。高濃度のIL-1βを動物の脳に投与するとけいれんを起こすことが知られていますし、一方、IL-1βの細胞上の作用点(受容体)を邪魔する物質はけいれんを抑える機能があります。そして、熱性けいれんを起こしたお子さんの髄液内には高濃度のIL-1βが検出されています。
 以上のようなことから、IL-1βが熱性けいれんの発症に何らかの形で関与しているらしいことはおわかりいただけるかと思います。
 しかし、では、IL-1βが熱性けいれんの原因と言い切れるかというと、そういうわけでもありません。まだまだ、解決すべき問題がたくさん残されているのです。
 一方、最近、熱性けいれんのお子さんの一部で、画像上、急性脳症と見紛う所見がみられる例があることも報告されています。左右の脳を連絡する脳梁といわれる構造物が脳の真ん中にあります。熱性けいれんのお子さんでMRIをとると、この脳梁が水っぽくなっていることがあります。これは軽い急性脳症や熱性譫妄のお子さんにもみられる所見ですが、そうした疾患で、なぜ、脳梁が水っぽくなるのか、理由はわかっていません。また、脳梁が水っぽくなる熱性けいれんがそうでない熱性けいれんと違うものなのかどうかも、今のところ、わかっていません。しかし、発熱が、何らかの変化を脳にもたらし、それが、けいれんに結びついているらしいことは、ぼんやりとではありますが、想像できます。
 このように、熱性けいれんの発生機序についてはいろいろな事が少しずつわかってきています。しかし、謎も多く、完全に解明されるのには、まだまだ、時間がかかりそうです。

▲このページの一番上へ戻る

体質、遺伝

 次に、体質、あるいは、遺伝です。
 熱性けいれんに遺伝が関与していることは、熱性けいれんを起こしたお子さんに熱性けいれんの経験のあるご家族が多いことからもわかります。熱性けいれんのお子さんのご両親が熱性けいれんの経験がある頻度は10~15%、兄弟姉妹は20%前後で、一般の熱性けいれん罹患率(日本では8.8%)に比べ高率です。しかも、同じ兄弟姉妹でも遺伝構造が似ている一卵性双生児では、熱性けいれん罹患率がさらに高く、56%です(Tsuboi)。一方、二卵性双生児の罹患率は普通の兄弟姉妹の場合とあまり変わりません。さらに、兄弟姉妹が熱性けいれんを発症した場合、発症年齢、熱性けいれん時最高体温など熱性けいれんの臨床的特徴が双子の同胞例では似かよっていることもわかっています。
 こうしたことから、遺伝要因が熱性けいれん発症に大きくかかわっていることは間違いなさそうです。
 しかし、では、熱性けいれんがメンデルの法則につきしたがうような遺伝をするのかというと、そういうわけではありません。
 現在までのところ、熱性けいれんを引き起こす唯一無二の遺伝子はみつかっていません。単一遺伝子ではなく、さまざまな遺伝子の変異が熱性けいれんと関連していることがわかってきています。たとえば、連鎖解析という手法によって2番染色体、5番染色体、8番染色体、19番染色体などさまざまな部位の遺伝子異常が熱性けいれん発症にかかわっていることが判明しています。つまり、いろいろな部位の遺伝子異常が最終的に症状として(表現型として)熱性けいれんという形をとっているらしいのです。しかし、そうしたいろいろな部位の遺伝子異常がどのようにして熱性けいれんという症状に結びつくのかは、まだ、わかっていません。遺伝子異常が熱性けいれんに至る道筋は謎のまま残されています。
 しかし、いずれにしても、以上のことから、前に述べましたように、熱性けいれんというのは,たったひとつの原因によって起こる疾患ではないことだけはわかります。熱をともなう発作で始まる「隠れてんかん」を除いても、さまざまな原因が熱性けいれんを引き起こします。前に述べたように熱性けいれんは、姿形は似ているものの、さまざまな原因による病気の集まりなのです。

▲このページの一番上へ戻る

<環境要因:体質と熱の相互作用>

 熱性けいれんは単純なメンデルの法則に従うような遺伝形式をとらないと申しましたが、熱という、ある種の環境要因が常に関与していることも、その原因の一つです。
 熱性けいれんは環境因子(発熱)と体質の相互作用によって発症する疾患です。
 体質と環境が相互に影響しあって発症する疾患としては高血圧(塩分のとりすぎ)、糖尿病(過食、もしくは、運動不足による肥満)などさまざまなものがあります。これらは、いずれも遺伝子(体質)の関与がいわれていながらメンデルの法則通りの発症形式をとりません。環境条件によっては発症しないことがありうるからです。熱性けいれんもそのひとつで、環境因子(熱)によっては発症しないことがあります。
 さらに、熱性けいれんの遺伝子(体質)をもつお子さんが高熱を発すると必ず熱性けいれんを起こすというわけでもありません。
 前にも申しましたように、同じ発熱であっても、発熱をきたす病気によって、熱性けいれんの起こりやすさが異なるからです。突発疹は熱性けいれんを起こしやすく、胃腸炎の発熱では熱性けいれんはあまりおきません。
 また、発熱する機会が少ない場合も、当然、熱性けいれんを起こす可能性は下がります。逆に、託児所や保育園に通っている子は熱性けいれんを起こす可能性が高くなります。
 このように、熱性けいれんの素因をもっていても、幼児期に罹患する感染症の種類や頻度によっては熱性けいれんを起こさないこともありえます。逆に、熱性けいれん体質がさほど強くなくても、感染症の種類によっては熱性けいれんを起こしますし、長いけいれんを起こしてしまうこともあり得ます。



▲このページの一番上へ戻る

年齢

 最後に年齢です。
 熱性けいれんは年令依存性の疾患です。
 表1をみていただければ一目瞭然ですが、だいたい、生後6か月から3歳、このあたりが、熱性けいれんの好発年齢です。そして、初発年齢のピークは1歳半前後です。5歳をすぎると熱性けいれんはほとんどみられなくなります。大人になってから熱によるひきつけを繰り返す方はいません。熱性けいれんは、乳幼児期に一時的にあらわれ、成長とともに消えていきます。
 6歳を過ぎ、小学生になってから、はじめて、熱性けいれんが起きるお子さんがまったくいないわけではありません。しかし、まれです。そして、10歳を過ぎての熱性けいれん発症はありません。ちなみに、6歳過ぎに初発する熱性けいれんは例外的なので、たちが悪いのではと心配される親御さんがみえますが、発作予後、知的予後も含め、もっと小さい頃に初発する熱性けいれんとほとんど変わらないことが知られています。

▲このページの一番上へ戻る

頻度

 図1をみられて疑問に感じられた方もみえるでしょうから、熱性けいれんの発生頻度について、ここで、簡単に触れておきます。
 熱性けいれんは小児に痙攣をもたらす原因としては飛び抜けて多い疾患で、2%から5%のお子さんにみられるとされています。つまり、100人に2人から5人にみられるということになります。いかにありふれた病気かわかります。しかし、この100人に2~5人という数字は世界の国々の中の平均的値で、国によって熱性けいれんの罹患率はかなりの差があります。図1を見ていただくとおわかりだと思いますが、どういうわけか、日本は熱性けいれんの罹患率が飛び抜けて高く、8.8%です。日本の子どもの一割近くが一度は熱性けいれんを経験するということになります。熱性けいれんの遺伝的素因の高い人が日本には多いということなのかもしれません。しかし、日本人の熱性けいれん罹患率がなぜ高いのか、その本当の理由は、よくわかっていません。また、この8.8%という頻度は保健所の乳児検診、小学校の学童検診の結果を基にして算出されたものです。岡山県玉野市における疫学調査では3.4%という世界の平均とほとんど変わらない結果が報告されいます。どちらが、日本の正しい有病率を反映しているのか、議論の決着はついていません。
 ついでながら、日本よりさらに高い熱性けいれんの罹患率が報告されているところがあります。
 グアムです。
 グアム島では100人中14人に熱性けいれんが起こると推定されています。
 逆に、熱性けいれんがかなり少ない国もあります。たとえば、イタリア、メキシコの熱性けいれん罹患率は1%台です。

▲このページの一番上へ戻る

繰り返すのは3分の1だけ

 熱性けいれんがみられたお子さんのご両親が一番心配されるのは、熱がでると、また、同じことが起きるのではないか、うちの子が、また、叫び声を上げ、すごい形相になって、ひきつけるのではないか、ということです。
 たしかに、何度も熱によるけいれんを繰り返すお子さんがみえます。しかし、その頻度はそれほど高くありません。熱性けいれんを起こしたお子さんのうち、熱をだして、再度、発作をおこすのは、3分の1の方だけです。残りの3分の2のお子さんは、2度と熱性けいれんを起こすことはありません。3回目を起こす確率はさらに低く、約1割です。万が一、2回目の熱性けいれんを起こしても、やはり、3人に2人はそれ以上熱性けいれんを起こすことはありません。
 再発は最初の熱性けいれんから2年以内がほとんどです。再発の9割が初発発作から2年以内に起きます。そして、再発の3分の2は一年以内に起きます。2年を過ぎると、再発のおそれはかなり少なくなります。
 再発が起こるかどうか、1人1人のお子さんについて正確に予測することは、残念ながら、できません。
 しかし、ある程度の目安はわかっています。
 再発が起こりやすくなる要因としては,家族内に熱性けいれん起こした方がいること、小さい頃に発症していること、熱性けいれんの時の最高体温が低い(≦38.3℃)こと、そして、発熱からけいれんまでの時間が短い(一時間未満)こと、などが挙げられます。
 とくに、熱性けいれんの若年発症は熱性けいれん再発と強い関連があります。たとえば、1歳半以前に最初の熱性けいれんがみられたお子さんは、1歳半以降に初回熱性けいれんがみられたお子さんに比べ、約2倍の再発率です。
 小さい頃に熱性けいれんを起こしたお子さんの再発率が高いのは、ある意味で、当然です。
 もう一度、図1をご覧下さい。熱性けいれんは1歳半を中心に、生後半年から3歳までにその大半が起きる疾患です。小さい頃に熱性けいれんが起きると、その熱性けいれん危険年齢帯を数年にわたってくぐり抜けなければなりません。当然、年齢がある程度いってから熱性けいれんが起きるお子さんに比べ、熱性けいれんをもう一度起こす機会は多くなります。
 ご両親などのご家族に熱性けいれんの既往があるお子さんの熱性けいれん再発率もご家族に熱性けいれんの既往のない子に比べ、1.5倍から2倍高くなります。熱性けいれんの体質が強い子は何度も熱性けいれんを起こしやすいということなのでしょう。ただし、熱性けいれんの再発に関係するのは熱性けいれんの家族歴であって、てんかんの家族歴ではありません。てんかんの家族歴は熱性けいれん後のてんかんの発症には関連しますが、熱性けいれんの再発との関連はあまりありません。
 熱性けいれん時、最高体温が低い(≦38.3℃)ことも再発の危険因子といわれています。熱に対するけいれん感受性が高いと再発しやすいということかもしれません。ただし、ここでいう体温は、前にも申したように、けいれんが起きているときの体温ではなく、経過中の最高体温です。
 熱性けいれん再発の可能性はこうした危険因子が多いほど高まります。危険因子が2個、3個、4個の場合、初発熱性けいれんから2年以内の熱性けいれん再発率は、それぞれ、32%、64%、75%になります。
 けいれんが長く続く遷延性熱性けいれんの場合も、再発率が高いように思われがちですが、幸いなことに、遷延性熱性けいれんがあったからといって、必ずしも、再発率は高くありません。ただし、万が一再発すると、再び、発作が遷延する傾向があります。初回熱性けいれんが遷延した場合、再発時のけいれんも遷延する危険性は非遷延性熱性けいれんの2~4倍です。
  熱性けいれん発症以前の精神運動発達異常、複雑型熱性けいれんの有無、民族、性別などは熱性けいれん再発との関連がないといわれています。

▲このページの一番上へ戻る

てんかんになりやすい?

 熱性けいれんとてんかんは別物だと申しました。しかし、それでも、不安に思われる方がみえるかもしれません。熱をともなうとはいえ、てんかん発作を起こしているわけです。てんかん発作を起こしやすい体質をもっているのではないかという疑問は、どうしても、拭えないかもしれません。
 
熱性けいれんの既往のある人お子さんがてんかんを発症する頻度は2-3%です(ただし、これは、せいぜい10歳ぐらいまで経過をみた場合で、観察期間が長くなると、当然、発症率も高まります。25歳まで経過を追っていったら7%がてんかんに移行したという報告もあります(ただし、これは地域研究のデータではないので、「比較的重症な」熱性けいれんを対象としていたためにてんかん移行率が高くなっているのかもしれません))。これは小児全体のてんかん発症率の4-5倍です。たしかに、熱性けいれんがない場合に比べ高率です。しかし、100人に2-3人ですから、残りの96-97人のお子さんは、てんかんを発症することはありません。熱性けいれんになったからといって、大半のお子さんでは、てんかんの発症に結びつくわけではないのです。
 
たしかに、一部のお子さんはてんかんを発症します。しかし、その場合でも、熱性けいれんが「悪化して」てんかんになるわけではありません。
 熱性けいれんに続発するてんかんの病型はさまざまです。熱性けいれんの既往があるお子さんに特徴的なてんかんというものはありません。熱性けいれんの経験がないお子さんのてんかんと大して変わらぬてんかんになります。逆に、小児期発症てんかんを有するお子さんの10%から20%に熱性けいれんの既往が認められます。しかし、そのてんかんには良性ローランドてんかんや小児欠神発作などさまざまなてんかん類型が含まれ,特定のてんかん症候群が飛び抜けて多いということはありません。つまり、一口にてんかんといっても、実にさまざまな形のてんかんと熱性けいれんは結びついているのです。
 さらに、熱性けいれんに続発するてんかんの多くは、特発性てんかん、すなわち、体質や遺伝が関連するてんかんです。
 このことは、熱性けいれんからてんかんに移行する例のほとんどでは、熱性けいれんはてんかんの原因ではなく、起点にすぎないことを暗示しています。熱性けいれんが「悪化して」てんかんになるのではなく、むしろ、てんかんを発症するようなお子さんが、小さい頃、たまたま、熱によるけいれんを起こしたと推定されるのです(ただし、きわめてまれな例外があります。それが、後で述べる、片側けいれん-片側麻痺-てんかん症候群にみられるてんかん、それに、海馬硬化による側頭葉てんかんです)。
 ひとりひとりのお子さんで、熱性けいれん後にてんかんを発症するかどうか、きちんと言い当てることはできません。
 しかし、どういうお子さんがてんかんになりやすいかは、ある程度、わかります。
 まずは、ご家族にてんかんの既往があるお子さんです。熱性けいれんに続発するてんかんに素因が関与していることが、このことからもわかります。
 さらに、複雑型熱性けいれんのお子さんもてんかんに移行しやすいことがわかっています。
 また、熱性けいれんを起こす前から発達に異常がみられていたお子さん、はじめて熱性けいれんを起こしたとき発熱していた時間が短かったお子さんも、熱性けいれんからてんかんへ移行しやすいといわれています。とくに、生下時から神経学的な異常がみられるお子さんの場合、半数強(55%)が熱性けいれんからてんかんに移行します。
 てんかんになる危険性が高いのであれば、何とかてんかんになるのを阻止できないかと考えてしまいます。たとえば、てんかん発作を抑える薬を飲みつづけることで、てんかんの発症を抑えられないか、ということです。
 しかし、残念ながら、これは、うまくいきません。
 抗てんかん薬を飲み続けることによって熱性けいれんの再発を抑えることはできます。しかし、その後のてんかん発症を阻止できるという保証はありません。また、発症したてんかんの難治化を阻止できるという証拠もありません。抗てんかん薬の副作用を考えると、必ず起きると限ったわけでもないてんかん発症を恐れ、抗てんかん薬をお子さんに飲ませるのは得策とはいえません。てんかんが発症した時点で、きちんと抗てんかん薬で治療すればいい話です。そして、その時点で治療を始めても,てんかんの予後の面からも知的な面からも、けっして手遅れではありません。

▲このページの一番上へ戻る

熱性けいれんが関連する2つの例外的病態

熱性けいれんがてんかんの原因になるのではないかという疑問は、保護者の方だけのものではありません。じつは、専門家の間でもずっといわれ続けてきました。
 前に、熱性けいれんが「悪化」しててんかんになるわけではないと申しました。このことは、熱性けいれんのほとんどのお子さんに当てはまりますし、間違いではありません。しかし、きわめてまれに、そうともいえない2つの病態が熱性けいれんに関連して生ずることが知られています。
 ひとつが、片側けいれん-片側麻痺-てんかん症候群 (Hemiconvulsion-Hemiplegai-Epilepsy 症候群、略して、HHE症候群)、もう一つが、内側側頭葉硬化てんかんです。
 いずれも、熱性けいれんが重積状態になることによって生ずる病態です。

片側けいれん-片麻痺-てんかん症候群(HHE症候群)

 HHE症候群は、4歳未満の乳幼児にみられる病態です。
 初発症状は、右半身または左半身がぴくぴくしていつまでもでも止まらない、遷延性片側間代けいれんです。とめどもなく涎が口から流れ出たり、呼吸が不安定になったりといった自律神経の不調を疑わせる症状が発作に付随してみられることもあります。何時間にもわたって発作は続き、24時間を超えてしまうこともあります。
 この遷延する発作をなんとか止めることができても、その後に麻痺が残ります。
 けいれんしていた側の手足がダランとして、力が抜けた状態になるのです。発作後のこのような麻痺をTodの麻痺と呼ぶということは、以前、お話しました。けいれんをもたらす異常電流のために脳の神経細胞がエネルギーを使い果たし、一休みするために起きる、一過性の機能性麻痺です。ところが、HHE症候群では、この発作後の麻痺がいつまでもつづき、最終的に半身不随になってしまいます。Todの麻痺のような機能性麻痺と異なり、HHE症候群では長いけいれんによって脳の神経細胞が破壊されます。麻痺はその結果として生じますから、元通りには戻らないのです。頭部のCTやMRIでみると、発作が起きていた側とは反対側の大脳半球の容積が減少しています。神経細胞が壊れてしまったためです。神経細胞の破壊は運動をつかさどる皮質にとどまりません。言語や記憶に関連する皮質にまで破壊は及びます。このため、知的な生涯も残ります。
 そして、数ヶ月後、数年後に、神経細胞が破壊されて生じた異常神経細胞網において、異常電流が流れはじめます。てんかん発作が起こるようになるのです。それも、きわめて難治なてんかん発作です。
 遷延する片側けいれんの後に、片麻痺となり、最終的にてんかん発作も合併するので、片側けいれん-片麻痺-てんかん症候群( Hemiconvulsion-Hemiplegai-Epilepsy 症候群、略して、HHE症候群と呼ばれています。
 初発時、片側けいれんにともなって、たいてい、発熱がみられます。しかし、細菌性髄膜炎や脳炎といった発熱をきたし、けいれんを長引かせるような原因はみつかりません。中枢神経感染症などの重篤な原因によらない、発熱を伴う片側けいれんが4歳未満の乳幼児にみられるわけですから、定義上、これは、熱性けいれんということになります。たしかに、HHE症候群は、熱性けいれんが「悪化して」てんかんを起こすようになった病態といえます。
 HHE症候群の原因はわかっていません。普通の熱性けいれんに比べると、周生期の脳障害など、何らかの脳障害を発症前にもっていたお子さんが多いことが知られていますが、そうした脳障害をもたずに正常に発達していたお子さんでも起きます。脳に異常のないお子さんにまで、なぜ、それほど長く続く発作が起き、ひどい後遺症を残すのか、よくわかっていません。
 よくわかっていないのは、じつは、このHHE症候群が先進国では激減していて、ほとんどみられなくなってしまっているからです。半世紀も前、フランスのガストーたちが150例について報告しているのが、HHE症候群についてのもっとも有名な論文ですが、その後、HHE症候群についてこれほどまとまった症例を報告した論文はあらわれていません。
 少なくなってしまった原因も、病気が事実上消えてしまった今となっては、よくわかりません。しかし、可能性として一番に考えられるのが、けいれん重積の治療の進歩です。ちょうど、ガストーたちの論文が出てしばらくしたあたりから、けいれん重積を確実に止める治療法が先進国の間で普及し始めました。それ以前は、どれほど長いけいれんをしていても、医者も家族の方も、呆然と、眺めているしかありませんでした。子どもがけいれん重積で入院しても、けいれんする手足を家族がかわるがわる、何日も、押さえているしかない、ということもあったようです。実際に私が現在診ていたことのある患者さんの話です。その方はひどい後遺症が残っていますが、現在45歳、ちょうど、ガストーの論文が出た5年後の話です。しかし、それからしばらくして、子供にも、カットダウンといった手法で、血管を確保し、ジアゼパムを静注してけいれんを押さえ込む治療が定着し始めました。
 けいれん発作が一時間以上続くと、過剰興奮によって神経細胞がふくれあがってきます。そして、けいれんがもっと長引くと、神経細胞がはじけて、壊死に至ります。かわいそうに、その患者さんにはそうしたことが脳の広範囲の神経細胞に起こってしまったのだと想像されます。しかし、けいれん重積の適切な治療によって、いまでは、そのようなことは、まず、起こらなくなってきています。
 HHE症候群が消えてしまったのには、もう一つ、理由が考えられます。
 HHE症候群の原因はわからないとさきほど申しました。しかし、HHE症候群と診断されていたお子さんには、脳炎・脳症や脳静脈血栓症が隠れていた可能性もあるのです。
 今ですと、何時間も続くけいれんがあれば、MRIの検査をします。すると、さまざまな異常が見つかり、脳炎、脳症、脳静脈血栓などの診断が下されます。しかし、MRIがない時代、たとえ疑うことはあっても、病理解剖でもなされない限り、そうした疾患を確定診断することはできませんでした。HHE症候群は髄膜炎、脳炎、脳症などの器質性疾患を除外して診断されていたことは事実ですが、今から考えると、除外しきれていなかった可能性が否定できません。しかし、今ですと、そうした症例は、HHE症候群とは診断されません。このことも、HHE症候群が激減した一因をなしているかもしれません。
 HHE症候群が激減したというのは、ささやかな経験から、私自身、実感して感じています。
 この症候群を最初に診たのは、30年前、医者になりたての頃です。熱性けいれんの既往がある2歳の男の子が、片方の手足がピクピクする3時間以上続くけいれんで、当時、私が勤務していた病院にみえました。ジアゼパムの静注で、一旦、けいれんは止まりました。しかし、しばらくして、再発、さまざまな薬を使い、結局、アレビアチンの静注によってようやく完全にけいれんを止めることができた頃には、すでに、病院にみえてから3時間以上たっていました。けいれんが止まってからも、意識のない状態が半日以上続きました。けいれんした方の手足はいつまでもダランとしたままです。上司の先生が「こういう子はね、麻痺が残るんだよね」とおっしゃいました。そして、残念ながら、そのとおりになってしまいました。「毎年来るんだよ、こういう子が」とその先生は険しい顔で呟かれました。そういうものなんだ、とその時は思いましたが、ありがたいことに、その後、同じようなお子さんを私は診ていません。その頃、同じHHHE症候群の後遺症で難治てんかんをもった思春期の女の子の治療もしましたが、HHE症候群の後遺症のある子を診たのも、その女の子をのぞいて、あと、1例だけです。私の限られた経験だけからいっても、たしかに、HHE症候群は、事実上、消失しています。
 このような事情ですから、日本も含め、医療レベルがある程度以上に達している国においては、HHE症候群によって、熱性けいれんからてんかんを生ずる恐れはほとんどないといっていいと思います。すぐにけいれん重積の治療を開始すればHHE症候群は起こりえないからです。あるいは、HHE症候群ではなく、脳の炎症あるいは血管障害として診断され、遷延した熱性けいれんとはみなされないからです。

▲このページの一番上へ戻る

未解決の問題――熱性けいれん重積発作と内側側頭葉硬化てんかん


 このように、けいれん重積の治療がきちんとなされている国では、HHE症候群は、事実上、消失しています。
 しかし、もう一つ、「熱性けいれんが悪化して」てんかんになるのではないかと疑われている疾患があります。
 遷延する熱性けいれん後にみられる内側側頭葉硬化てんかんです。
 ただし、HHE症候群と異なり、内側側頭葉硬化てんかんの患者さんは、けいれん後、半身麻痺が残るわけではありません。長いけいれんはあったものの、一見、うまい具合になんの問題も残さずにけいれんは終わってしまったようにみえます。しかし、遷延する熱性けいれんを起こしてからかなり年月がたってから、難治てんかんとなってしまうのです。そして、よくよく調べてみると、何も傷跡を残さず治ったはずなのに、側頭葉の内側が堅く小さく縮こまっていることに気づかれます。
 すこし、話が横道にそれることを、お許し下さい。
 医者に成り立ての頃、静岡のてんかんセンターで2週間ほど研修したことがあります。初代センター長の和田豊治先生がまだお元気な頃のことです。研修医の仕事は、毎朝、初診の患者さんの病歴をとることからはじまります。そして、脳波,血液検査などの検査がでそろった昼近く、和田先生がその患者さんを診察されます。研修医は和田先生に問診と検査の結果を報告し、和田先生の診察を見学、診察が終わり、患者さんとご家族が出て行かれたあとで、先生のお話をうかがうというのが日課でした。
 ある時、診察後のお話しのなかで和田先生は
「小児科医がきちんとしていないから、てんかんがひどくなる!」
と真っ白なあごひげを怒りに震わせられながら、断言されました。当時、私は小児科医になろうと思っていましたから、先生のこの言葉に、ちょっと、気が挫けました、しかし、ありがたいことに、その後、和田先生の弾劾の矛先は精神科医、内科医へと向かい、ほっと、一息つきました(ちなみに、和田先生は精神科医で、てんかんセンターにみえる前には、東北大学精神科の教授をされていたたことがあります)。
どういう文脈のなかで、和田先生のお話が小児科医断罪論に至ったのか、よく覚えていません。ただ、先生が小児科医に不信感をもっておられた原因については、ひとつ、思い当たることがあります。
 それは、熱性けいれんと内側側頭葉てんかんとの関係です。

 

内側側頭葉硬化群 (17例)

非内側側頭葉硬化群 (17例)

統計的有意差

男/女

9/8

8/9

なし

てんかん発症年齢

3~14 (平均、12)

0~12 (平均、4)

あり

熱性けいれん既往歴

13(76%)

4(24%)

あり

遷延性熱性けいれん既往歴

12(71%)

0(0%)

あり

表1 小児期発症側頭葉てんかん34例おいて、内側側頭葉硬化が原因の17例と内側側頭葉硬化以外の疾患が原因の17例を比較検討したもの。内側側頭葉硬化群はてんかん発症年齢が高く、熱性けいれん、とくに、けいれん重積をきたす熱性けいれん(遷延性熱性けいれん)の既往が圧倒的に多い。


 内側側頭葉硬化てんかんによる患者さんのなかには、昔、熱性けいれんを起こしている方が少なくありません。それも、たいていは、20分以上遷延する熱性けいれんです(表1)。しかも、熱性けいれんの時、右半身または左半身優位の間代性けいれんのことが多いのです。その一連の経過から考えると、遷延する熱性けいれんの「後遺症」として、内側側頭葉硬化てんかんが生じてしまったようにみえます。
 小児科医が「きちんと」熱性けいれんを治療していればこんなことにはならなかったのだ―――いまから考えると、どうやら、これが、和田先生のお怒りの原因だったようです。
 内側側頭葉硬化てんかんについては他でも触れていますが、熱性けいれんを語るうえで大事なことですので、もう一度、ご説明いたします。

図2 大脳側面図 フリー百科事典『ウィキペディア』
 
 
大脳半球は大きな脳溝を境として前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つに区分されています。側頭葉は頭頂葉の下方に前頭葉と後頭葉に挟まれるようにして側頭骨に包まれています(図2)。ただし、それは側頭葉の外側部だけの話です。側頭葉は脳の内側へも入り込んでおり(図4)、この部分も側頭葉に含まれます。側頭骨に接し、外側に位置する側頭葉を外側側頭葉、内側に入り込んだ側頭葉を内側側頭葉と呼んでいます。内側側頭葉は系統発生上古い皮質(旧皮質)で、神経細胞による組織構成も系統発生上新しい(新皮質)外側側頭葉と異なります。
 外側側頭葉は他の脳葉同様、数え切れないほどたくさんの機能にかかわっています。しかし、なかでも重要なのが、外界刺激を認識して処理統合し、過去の記憶と照らし合わせてその意味を判別することです。一方、内側側頭葉にある海馬(図4)、扁桃核といった神経細胞集団は視床下部、乳頭体など側頭葉以外の神経細胞群と連帯して記憶に関与しています。また、種の保存に必要な情動や自律神経機能を統合する役割も果たしています。海馬、扁桃核、視床下部、乳頭体は相互に密接に結合しており、辺縁系と呼ばれています。
 側頭葉てんかんとは、側頭葉に発作焦点があり、側頭葉起源のてんかん発作が繰り返し起きる病態をいいます。同様に、発作焦点の部位によって、前頭葉てんかん、頭頂葉てんかん、後頭葉てんかんが区別されます。


図3 小児症候性局在間てんかん発作消失の経時的変化
側頭葉てんかんは、前頭葉てんかんに比べ発作消失率が低い。成人で側頭葉てんかんが難治てんかんの主体をなすようになるのはこのためと思われる。

 
 
内側側頭葉にある海馬、扁桃体といった辺縁系組織は痙攣閾値が低く、てんかん発作焦点を形
成しやすくなっています。さらに、外側側頭葉に始まったてんかん発射は急速に内側側頭葉に伝播、内側側頭葉で異常電流が励起され、発作が遷延し、他の脳葉に異常放電が拡大していくこともあります。このため、内側側頭葉、とくに辺縁系組織は「てんかん発作のペースメーカー」と呼ばれています。
 大脳半球の4つの脳葉のうちもっとも大きいのは前頭葉で、脳表の約3分の1を占めます。もし、てんかん焦点になる可能性がどの脳葉でも同一であれば、面積比からいって、当然、前頭葉てんかんの患者さんの数がもっとも多くなるはずです。事実、小児の部分てんかん(症候性もしくは潜因性部分てんかん)では、前頭葉てんかんがもっとも多いといわれています(図3)。ところが、成人に達すると、側頭葉てんかんが前頭葉てんかんを抜いて部分てんかん、とくに、難治性部分てんかんのトップに躍り出ます。おそらく、それは、辺縁系内側側頭葉のてんかん発作への閾値が低いためだと思われます。発作が起こりやすいために、側頭葉てんかんはなおりにくく、成人になっても発作を繰り返すのです。このため、成人では、部分てんかん、とくに、難治性部分てんかんといえば側頭葉てんかんというイメージができあがっています。
 側頭葉てんかんの病因としては腫瘍、先天性形成異常、瘢痕組織などさまざまなものがあります。しかし、なかでも頻度が高いのが内側側頭葉硬化病変です。内側側頭葉硬化病変というのは側頭葉内側にある海馬が縮こまって堅くなったものをいいます。手足にひどい傷をすると、傷あとが縮んで堅くなることがありますが、それと似たようなものです。MRIなどの画像では、海馬病変は正常の海馬に比べ縮んでみえます(図5)。組織学的には,海馬の神経細胞が脱落減少していて,その跡をグリアという間質細胞が埋めています。神経細胞が少ないために、ブドウ糖の消費量が少なく、海馬病変ではブドウ糖のとりこみも低下しています(図5)。 


図4 内側側頭葉の海馬組織(左)とタツノオトシゴ(右)
「ウィキペディア 海馬(脳)から」
海馬というのは、トビウオの仲間、タツノオトシゴのことです。海馬組織だけを切り出してくると形がタツノオトシゴにそっくりなのでそのように名付けられたとされています(図4)(ただし、海馬が何を指すのかということに関しては専門分野ごとに見解が異なります。さまざまな歴史的経緯から解剖学者の多くは海馬をタツノオトシゴではなくギリシャ神話の海の神ポセイドン(ローマ神話ではネプチューン)がまたがっている馬とみなしています。一方、神経病理学者は病理解剖の記事に海馬のことをアンモン角という用語で記載することが少なくありません。エジプトのアモン神の角に似ているというのでつけられた名前で、化石のアンモナイトもこのアモン神から名付けられています。しかし、神経生理学の分野ではタツノオトシゴ説が言い伝えられ、臨床てんかん学もそれにならっています)。


図5 内側側頭葉てんかんのMRIとポジトロンCT
 
右上は脳の正中線における矢状断で、この図で橙色の垂直線で撮影した冠状断が左下図、30°ほど前方に傾けて撮像したものが右上図。この右上図で下方両側に房のように突き出ているものが側頭葉である。左下図で内側に灰色の塊のようなものがみえるのが内側側頭葉の海馬で、右に比べ左の海馬が小さいのがわかる(矢印;海馬萎縮)。ポジトロンCTでも右海馬は索状に黄色く写っているのに、左海馬には黄色のものはみられない。これは、右海馬でエネルギー源の糖の取り込みが低下していることを示している。


 
内側側頭葉硬化病変によるてんかん発作の代表的症状は、「胃からこみ上げてくるような」異常感覚です。この前兆の後、意識が飛び、目がうつろとなり、口をもぐもぐさせたり、手に持っているものを弄んだりといった自動症が続きます。この自動症は海馬硬化がある方によくみられる発作症状で、同時に、反対側の上肢がゆがんだように硬直することもあります。そして、ときとして、全身痙攣に至ります。こうした発作症状の移り変わりは、内側側頭葉に始まった異常放電が側頭葉全体に広がり、さらには、脳全体に広がっていくさまを映しだしています。
 この海馬硬化による側頭葉てんかん,内側側頭葉硬化てんかんは、治療上、重要な特質があります。
 表1にお示ししたように、このてんかんは主として幼児期から思春期にかけて発症します。しかし、発症当初は抗てんかん薬の服薬で簡単に発作が止まってしまうことが少なくありません。治療によって、数年、発作がない状態が続き、薬を減量中止できる方もみえます。ところが、その後、しばらくして、発作が再発します。そして、こんどはどんな薬を使っても効きません。前のことがあるので、こんども止まるだろうと患者さんも医者も期待し、いろんな薬を試すのですが、全く効きません。意識が消失する発作が頻回に起き、生活に重大な支障をきたすようになります。

 ところが、薬にこれほどの抵抗性であるにもかかわらず、外科治療が驚くべき効果を示すのです。堅くなった海馬とその周辺のてんかん発作を起こしやすくなった組織を切り取ることによって、80%近くの患者さんで、それまでのことが嘘のように、発作がなくなります。海馬硬化による側頭葉てんかんは、てんかん外科治療によって発作が消失する可能性がもっとも高い疾患の一つで、てんかん外科において重要な位置を占めています。
 ところで、海馬硬化病変にみられる神経細胞脱落、繊維化ですが、そうした組織変化がどうして生ずるのか、発生機序はまだよくわかっていません。
 前に述べましたように、内側側頭葉硬化てんかんのある患者さんには,熱性けいれん、それも、遷延性熱性けいれんの既往が高率にみられます(表1)。このため、長いけいれんによって海馬硬化が「傷跡」として残ったのではないかという疑惑が生じます。そして、それが、和田先生のお怒りの原因になっていたのです。「小児科医が熱性けいれんをきちんと治療をしないから、内側側頭葉硬化てんかんのような難治なてんかんになってしまった」というわけです。


図6 けいれん重積後の海馬異常 12歳男児
数時間に及ぶ右半身けいれんけいれんがみられ12歳男児のけいれん停止後のMRI.左のT1強調画像では異常を認めないが、右のT2強調画像では左側頭葉内側の海馬に白い異常信号を認める(矢印)。4か月後、この男児は急に呼吸を荒げ、「ちょっと待った,胃のあたりが気持ちが悪い」と言った後、反応がなくなり、眼球が左へ偏移し,全身が硬直する100秒前後の発作が認められるようになった。発作に一致して、脳波上、左側頭部から始まる漸増する律動波を認めた。

 実際、動物実験でも、熱をともなうけいれん重積が海馬の神経網を変化させ、将来、そこがてんかん焦点になりうることが確認されています。さらには、ヒトにおいても、重積けいれんが海馬に異常をもたらす可能性が、MRI検査で確認されています(図6)。

 では、長い熱性けいれんは内側側頭葉硬化てんかんの原因といってしまっていいのかというと、それは、ちょっと、早計です。そうともいえない「証拠」もあるからです。
 NIHなどによる熱性けいれんにかんする前方視的地域研究のデータです。
 こうした地域研究では、遷延する熱性けいれんがみられたお子さんのうち,その後、内側側頭葉硬化てんかんになった例がみつかっていないのです。
 ただし、NiH研究は7歳までのデータしかありません。もっと大きくなったら内側側頭葉硬化てんかんになるこどもがいたかもしれないという反論は、当然、あります。しかし、たとえば、熱性けいれんを起こした子ども329例を平均12年間追跡したのち、MRIを撮像した報告がノルウェイからなされていますが、やはり、内側側頭葉硬化てんかんはみつかっていません。しかも、この329例のうち24例は熱に伴って痙攣重積になった例、8例はてんかん発症例です。しかし、いずれの群からも内側側頭葉硬化てんかんはみつかっていません。もちろん、12年ではまだ短い、329例では数が少なすぎるという考えもあるでしょう。しかし、少なくとも、熱性けいれんから内側側頭葉硬化てんかんが発症する例は、たとえ痙攣重積になった例に限っても、前方視的地域研究では、まだ、一例も見つかっていないのです。
 さらに、内側側頭葉てんかんには皮質形成異常のような脳の先天奇形がときとして合併していることがしだいにわかってきています。このことは、熱性けいれん重積状態が内側側頭葉硬化てんかんの原因ではない可能性を暗示しています。つまり内側側頭葉硬化てんかんになる人は、熱性けいれん発症前からなんらかの脳内病変をもっていて、それが原因で乳幼児期には熱にともなうけいれん(それも、遷延性けいれん)を起こし、その後、内側側頭葉硬化てんかんを起こすに至ると考えることもできるのです。
 しかし、これも推測にすぎません。
 現在、アメリカでは、多数の熱性けいれん重積例について経時的にMRIを行い、内側側頭葉硬化てんかんが発症しないか確認する研究が行われています。そうした研究によって、将来、卵(側頭葉硬化てんかん)が先か鶏(熱性けいれん重積)が先かという議論に決着がつく日がくるかもしれません。しかし、現時点では、遷延する熱性けいれんによって側頭葉内側硬化てんかんが生ずると断言することはできません。

▲このページの一番上へ戻る

熱性けいれんの生命予後、知能予後

 熱でけいれんする我が子の姿を見て、このまま死んでしまうのではないか、死にはしないまでも、脳にひどいダメージを受けるのではないか、と心配される親御さんは少なくありません。
 しかし、いずれも、杞憂にすぎないといっていいと思います。
 熱性けいれんによる合併症、死亡はきわめてまれです。ほとんどゼロと考えていただいて結構だと思います。膨大な数の熱性けいれん患者を対象とした研究がいくつも行われていますが、熱性けいれんに関連する死亡例は報告されていません。
 熱性けいれんを起こした子が,その後、知能障害を起こしたり、行動障害をきたしたりすることも、ほとんど、ありません。HHE症候群では知能障害が起こりえますが、きちんとけいれん重積の治療ができる環境にあれば、この症候群が起こらないことは、前に述べたとおりです。
 数十年前までは、熱性けいれんのある子は知能の遅れや異常行動をきたしやすいと主張する研究者がいました。しかし、これは、熱性けいれん発症前から遅れのあった子、細菌性髄膜炎や脳炎などの重篤な中枢神経感染症でけいれんをきたし、後遺症の残った子、そして、HHE症候群の子が含まれていたせいだと思われます。そうした子を除けば、熱性けいれんのあった子に運動障害が残ったり、知的能力(知能指数、学業成績)の低下を認めたりすることはありません。
 兄弟姉妹の間で熱性けいれんがあった子となかった子の知能指数を比較した研究があります。そこでも熱性けいれん群と非熱性けいれん群の間で差を認めていません。熱性けいれんでも複雑型熱性けいれん、あるいは、遷延性熱性けいれん(熱性けいれん重積)を起こした子はさすがにちょっと劣っているのではないかという気がしますが、そうしたひどい熱性けいれんがみられた子でも、他の兄弟姉妹と比べて知能に差はありませんでした。
 熱性けいれんがあった子となかった子の10歳になったときの学業成績、知能指数、行動評価などさまざまな指標を多数例で比較した研究も行われています。しかし、いずれの項目においても熱性けいれんがあった子となかった子に全く差はありませんでした。さらに、6歳の時の比較ですが、熱性けいれんが一回でもあった子は熱性けいれんが全くなかった子と比べて注意力、記憶力の点で差がなかったという報告もなされています。この報告では、ものごとの遂行能力が熱性けいれんの既往がない子に比べすぐれていたという結論さえでています。

▲このページの一番上へ戻る

検査

 熱性けいれんのお子さんがみえたとき、状態によっては、さまざまな検査を行います。血液検査、微生物の迅速診断検査、MRIやCTといった画像検査、それに、髄液検査です。多くは、発熱やけいれんの原因調べ、身体の炎症の程度を見積もるためのものです。
 そして、このうち、もっとも問題となるのが、髄液検査です。


細菌性髄膜炎の除外


 発熱をともなうけいれんを起こしたお子さんがみえたとき、なんとしても除外しなくてはならない病気がひとつあります。
 細菌性髄膜炎です。
 細菌性髄膜炎はまれな疾患ですが、しばしば、発熱とけいれんをともないます。そして、半日、一日の診断、治療の遅れが重大な結果をもたらします。ですから、熱性けいれんの患者さんがみえたときは、真っ先に細菌性髄膜炎の存在を否定する必要があります。ところが、熱性けいれんを起こす乳幼児のお子さんでは、特有の症状が出にくいため細菌性髄膜炎が見逃されやすいとされてきました。
 脳と脊髄をおおう薄い膜を髄膜といいます。細菌性髄膜炎は、この髄膜とその周辺にある髄液、血管などに細菌がとりついて起きる病気です。
 消化管や呼吸器などと異なり、脳や脊髄は外界から遮断され、無菌状態に保たれています。この無菌状態の髄膜周囲に細菌が感染すると(細菌は、多くの場合、血液にまぎれ込んで(菌血症、敗血症)髄膜とその周囲にとりつきます)、髄膜は必死になって脳や脊髄を護ろうとします。炎症反応を起こし、細菌を追い出しにかかるのです。しかし、そう、うまくはいきません。元々細菌がいないはずの場所ですから、備えが不十分です。どんどん細菌が増えていきます。そのうえ、自分を護るべき炎症反応が逆に問題をおこします。生体はインターロイキンIなどのサイトカインを放出して細菌を撃滅しようとしますが、やりすぎてしまうのです。激しい炎症反応によって、逆に、脳が破壊されます。さらに、防御反応によって死滅した細菌の分解物も脳に悪影響を及ぼします。こうしたことから、適切な抗生物質で細菌を殺す手助けをし、炎症を抑える薬で炎症反応をコントロールしないと、脳が破壊され、最悪の場合、死に至ります(抗生物質出現以前、細菌性髄膜炎(脳膜炎)は死の病でした)。命が助かっても、重篤な運動障害,知能障害、聴覚障害が後遺症として残ります。
 当然、早期診断、早期治療が大切です。時間単位の対応が必要になります。
 ところが、熱性けいれんを起こす乳幼児のお子さんでは、早め早めの対応が難しいのです。
 髄膜に炎症が起きると、高熱、けいれんに加え、髄膜の炎症に特徴的な症状がでます。激烈な頭痛、吐き気、嘔吐,異常な目つきなどです。
 髄膜に細菌がとりつくと髄膜と脳脊髄の間を流れる髄液の流れが滞ります。脳は頭蓋という骨の閉鎖空間に閉じ込められていますから、行き場を失った髄液は頭蓋内の圧力をどんどん押し上げます。その結果、頭痛、吐き気、嘔吐、眼球運動異常などの症状、徴候がもたらされるのです。
 さらに、炎症によって放出されたセロトニンなどの物質によって、髄膜は痛みに鋭敏になります。このため、炎症をおこした髄膜が何らかの形で引っ張られると、異常な痛みを感じ、防御的に引っ張られまいとします。たとえば、首を屈曲させると、背中側の髄膜が引っ張られますから、首の後側の筋肉に力が入って硬直し、頭を前屈させまいとします。項部硬直と呼ばれる症状です。それでも、無理に首を曲げようとすると、少しでも背部の髄膜の伸展を和らげようとして股関節、膝関節が曲がります。膝がお腹に引き寄せられてくるのです。Brudzinski徴候と呼ばれている現象です。この折り曲がった膝を無理に伸ばそうとすると、患者さんは首に激痛を感じるため、結局、膝を伸ばすことはできません。これはKernig徴候と名づけられています。
 これらの症状はいずれも髄膜炎を疑わせる重要な症状や徴候です。
 しかし、中でも、発熱、項部硬直、意識障害は、髄膜炎の三徴と呼ばれています。成人の細菌性髄膜炎であれば、95%にこの3徴のうち2つの徴候がみられます。
 熱をともなうけいれんが起きたお子さんにこうした髄膜刺激徴候がみられたら、なによりも、まず、髄膜炎を疑います。そして、背骨の腰の部分、腰椎という骨の連らなりのすき間に針を刺し入れ、髄液を採取します。髄液に炎症所見がないか、そして、髄液に細菌が紛れ込んでいないか、調べるのです。腰椎穿刺と呼ばれる検査です。髄膜炎では、炎症のために髄液の白血球が増え、炎症タンパクが増加し、細菌に消費されて糖分が下がります。髄液にそうした所見がみられ、さらに、細菌がみつかれば、確実に細菌性髄膜炎であるといえます。診断がつくと、すぐさま、抗生物質とステロイド剤による治療を開始します。
 しかし、小児、とくに、乳幼児では、髄膜炎に罹患していても髄膜炎を疑わせる症状、徴候がみられないことがあるといわれてきました。年齢が小さいほど症状がはっきりせず、典型的な症状、徴候が出にくいというのです。髄膜炎の三徴がきちんと揃うことなど、まず、ないとされてきました。
 ところが、熱性けいれんにこの細菌性髄膜炎が紛れ込んでいることがあります。熱にともなうけいれんがみられたお子さんの2-5%に髄膜炎が潜んでいるとかつてはいわれていました。一方、髄膜炎を起こした子どもの13-16%の初発症状がけいれんだという報告もなされてきました。そのうえ、乳幼児、とくに1歳半未満の乳幼児の髄膜炎においては30-35%において上に述べた髄膜炎に特異的な症状がみられないといわれていたのです。ですから、熱性けいれんがみられたお子さんで、すこしでも髄膜炎が疑われるのであれば、ある程度侵襲性の高い検査であっても、躊躇なく,腰椎穿刺をすることが欧米では推奨されてきました。
 たとえば、英国小児科学会は、1991年の熱性けいれんガイドラインの中で、熱性けいれんを起こした月齢18か月未満の乳幼児、とりわけ、12か月未満の乳児では、腰椎穿刺を行うことを推奨しています。必ずしも、全員に行う必要はないし、経験豊富な医師が臨床所見から腰椎穿刺をやらなくてもいいと判断することがあってもいいが、少しでも疑いがあるのであれば、やるべきだというのです。その後、1996年の熱性けいれんガイドラインの中で米国小児科学会も、月齢12か月未満の乳児が熱性けいれんを起こしたら腰椎穿刺を行うことを強く推奨しています。この月齢では髄膜炎の症状、徴候が全くみられないか、あっても、ほんのわずかだから、というのが、その理由です。さらに、月齢12か月から18か月の幼児でも腰椎穿刺を考慮すべきとされています。(ちなみに、日本では1996年に熱性けいれんのガイドラインがでています。腰椎穿刺について英米のような明確な指示はなされていませんが、やはり、髄膜炎の症状の有無に留意し、「疑いがあれば腰椎穿刺を積極的に施行する」と書かれています)。
 つまり、英米いずれのガイドラインも1歳未満の乳児が熱性けいれんを起こしたら全員腰椎穿刺し、1歳半までの幼児の熱性けいれんでも、腰椎穿刺施行を前提にすべきだと勧告していたのです。
 しかし、では、この両国においてこの指針がきちんと守られてきたかというと、必ずしも、そうではありません。
 たとえば、英国です。
 たしかに1970年代には初回熱性けいれんの子どものほとんど(96%)が腰椎穿刺を受けていました。しかし、1980年代に入ると、これが約3分の2(67%)に減少、1990年代にはたった16%にまで激減しています。同じようなことは、アメリカでも起きています。
 思考率が激減した原因のひとつは、腰痛穿刺がかなりの苦痛と恐怖を伴う検査であるためです。しかも、完全に安全とは言い切れない検査なのです。
 腰椎穿刺において背中に針を刺す際、お子さんが動くと、狭い髄液腔にきちんと針を差し込むことができません。このため、お子さんをベッドに横にして寝かせつけ、介助者が両手両足を使ってお子さん押さえ込みます。両足でお子さんの足を挟み込んで動けないようにし、片手で頭を押さえ込み、もう一方の前腕でお腹を押し、腰が突き出るようにします。そうすると、腰椎の骨と骨の間の隙間が空いて、針を差し込みやすくなります。しかし、無理矢理寝かされ、押さえ込まれ、腰にかなり太い針を突き刺されるのですから、お子さんにとってその恐怖、苦痛は並大抵のものではありません。
 しかも、髄液腔にうまい具合に針先が止まってくれないと、髄腔壁の血管を傷つけ、血液混じりの髄液を採取することになってしまいます。これでは、髄液をきちんと評価できません。
 そのうえ、腰椎穿刺は、全く安全な検査といえません。
 髄膜炎によって頭蓋内の圧力が高まっているときに腰椎穿刺をおこなうと、死に直結する可能性も、絶対ないとはいえないのです。腰椎穿刺によって髄液が体外に流れ出て腰の方の髄腔圧が低下し、脳脊髄全体に下向きの圧力がかかります。このために、脳の中心部にある幹の部分、脳幹が押しつぶされ、呼吸や心臓が止まる可能性があるのです(脳ヘルニアといわれる現象です)。ですから、髄液検査は血液検査のように手軽にできる検査ではありません(ただし、細菌性髄膜炎における腰椎穿刺で本当に脳ヘルニアが起こるかどうかについては議論があります。脳ヘルニアを恐れて、必要な腰椎穿刺さえ行われていないことに批判もでています。腰椎穿刺をやってはいけない禁忌事項はわかっているので、それを遵守すれば問題は起きないとされています)。
 こうした事情に加え、どうやら、小さいお子さんであっても、細菌性髄膜炎を見逃す可能性が低いことが、最近、わかってきました。これが、腰椎穿刺の試行率を下げているもう一つ大きな要因です。
 最初に、熱にともなうけいれんがみられたお子さんでは2-5%に細菌性髄膜炎が隠れている可能性があると書きました。ところが、最近は多く見積もってもせいぜい0.4%、実際にはもっと少ないと推定されています。昔に比べに比べ10分の1以下に頻度が下がっているのです。
 原因はワクチンです。
 熱性けいれんを起こす乳幼児の方にみられる細菌性髄膜炎の原因菌の大半は肺炎球菌とインフルエンザ桿菌です(生後4か月から5歳の細菌性髄膜炎の70~72%はインフルエンザ桿菌、20~25%は肺炎球菌が原因菌です:日本神経感染症学会作成の細菌性髄膜炎の診療ガイドライン)。この2つの細菌に対する乳幼児の免疫力を高めることができれば、悲惨な結果を招く細菌性髄膜炎の頻度をかなり下げることができます。こうして、欧米を中心として多くの国でこの2つの細菌に対するワクチン(インフルエンザ桿菌b型(Haemophilusinfluenzae Type bに対するHibワクチンと肺炎球菌に対する7価小児用肺炎級ワクチンPCV7ワクチン)が開発され、接種されるようになりました。最近、ご存じのように、日本でも生後5か月までにこの2つの細菌に対するワクチンを3回済ませる定期接種(4回目の追加ワクチンは1歳を過ぎてから)が行われるようになっています。
 この結果、乳幼児の細菌性髄膜炎の頻度は劇的に下がりました。
 たとえば、米国 CDC によれば、Hib ワクチンの定期接種により、5 歳未満のお子さんの Hib 感染症の数は 99%減少し、発生率は10 万人に 1 人以下になっています。
 当然、熱性けいれんに細菌性髄膜炎が隠れている可能性も少なくなりました。
 最近の調査では、少なくとも、単純型熱性けいれんでは、熱性けいれんに細菌性髄膜炎が隠れている可能性は限りなくゼロに近いということがわかっています。数百例の単純熱性けいれんにおける細菌性髄膜炎発生にかんする検討が欧米のいろいろな施設でなされていますが、どの報告でも細菌性髄膜炎は1例もみつかっていません。おそらく、1000人に1人もいないのではないかと推定されます。
 複雑型熱性けいれんでは、さすがに、もう少し、細菌性髄膜炎の頻度が高いようです。526例中3例(0.9%)にみられたという報告もなされています。100人に1人はいると考えておいた方が良さそうです。しかし、そうした場合でも、熱性けいれん以外に症状がないということは、まず、ありません。繰り返し吐いたり、いつまでも意識が戻らなかったり、呼吸状態がおかしかったり、脈が異常だったり、目つきがおかしかったり(目が寄ったり、目が沈み込んだり(落陽現象))、頭の骨の隙間(大泉門)が盛り上がっていたりと細菌性髄膜炎にともなう頭蓋内の圧力の上昇を疑わせる症状や徴候が、まず、ほとんどの例でみられます。
 このように、熱性けいれんに細菌性髄膜炎が隠れている場合、乳幼児であっても、熱とけいれん以外に細菌性髄膜炎を疑わせる症状が付随していることがわかってきました。けいれんに加え、細菌性髄膜炎を強く疑わせる症状がみられるのです。たいていは、いつまでもぐったりとして、反応に乏しく、意識レベルが低下しています。意識レベルが低下していなくても、項部硬直、出血斑など、たんなる熱性けいれんと思えない症状がみられます。
 ですから、以前推奨されていたように、1歳以下の初回けいれんであれば軒並み腰椎穿刺をするようなことは必要ないと考えられるようになってきました。それよりも、怪しいと思われるお子さんは入院していただいて、時間をおき、経験のある臨床医が、意識の回復の有無を確認し、髄膜炎を疑わせる症状が出ていないか確認すべきだという考えに傾いてきています。英米のガイドラインというのは、経験の乏しい研修医であっても細菌性髄膜炎を見逃さない方策として、どうやら、作成されたようです。しかし、結局は、病歴をよく聞き、患者さんの状態をきちんと把握するという本来あるべき臨床診断の姿に戻ってきているのです。
 ただし、アメリカでは、インフルエンザ菌や肺炎球菌のワクチンをうけていない、あるいは、この2つのワクチン歴が不明の6か月から12か月の乳児の熱性けいれんでは腰椎穿刺を選択枝の一つに数ええるようにというガイドラインが、最近、小児科学会からだされています。さらに、発熱で以前に受診して抗生物質を服用している乳児でも腰椎穿刺を考えるよう呼びかけています。こうした一律的な考え方がアメリカに残っているのは、保険の関係で、簡単に入院させるわけにいかないという事情が隠れているのかもしれません。

脳波 

 
熱性けいれんの主症状はてんかん発作ですから、てんかん同様、脳波が重要な検査とお思いかもしれません。しかし、熱性けいれんにおける脳波の活躍の場は限られます。
 もちろん、熱性けいれんの最中に脳波を記録できたら、相当な価値があります。熱にともなって間違いなくてんかん発作が起きたことの証拠ですから。「てんかんと似て非なるもの」のところで述べたように、熱性けいれんは熱性失神などさまざまな発作性疾患との鑑別が必要です。ですから、てんかん発作であると確実に診断ができることは大切です。しかし、前に述べましたように、熱性けいれんにおいて発作中に脳波が記録されることはめったにありません。ほとんどの場合、発作時脳波の助けはえられず、発作を目撃した人の話を詳しく聞いて、熱性けいれんかどうか判断します。
 脳波は、熱性けいれんが長引いているときにも重要です。痙攣が長引いていれば、点滴で血管を確保し、すぐに、抗痙攣剤を血管内に入れて、発作を止めます。しかし、症状から、本当に発作が長引いているのかどうか疑問を感じるようなことが、たまに、あります。そうした場合には、脳波をとる必要があります。熱性けいれん後にみられる非てんかん性のもうろう状態かもしれないからです。やはり、「てんかんと似て非なるもの」で申しましたが、熱性けいれんを起こすお子さんの中には、けいれんが終わった後もボーっとして、意識がなかなか戻らず、さまざまな「けいれん様」の異常な動きを数十分にわたって示すことがあります。「痙攣性運動を伴う遷延性非てんかん性もうろう状態」と呼ばれる状態です。この「けいれん様」異常運動というのは、強直姿勢、全身の筋緊張亢進、焦点性間代、眼球偏位、自動症様運動で、一見、てんかん発作(複雑部分発作)みたいにみえます。しかし、顔色は悪くありませんし、最初は刺激しても反応にとぼしく、意識が低下しているようにみえますが、そのうち、だんだん反応がみられるようになります。一見、けいれん重積状態のようにみえるのですが、脳波をとってもθ波,δ波といった不規則な遅い波がみられるだけで、てんかん発作時に特徴的な律動波はみられません。代わりに、睡眠から目覚めるとき小さい子によくみられるような不規則徐波がみられるのです。このことは、この痙攣様異常運動が異常覚醒反応状態である可能性を示唆しています。このような痙攣性運動を伴う遷延性非てんかん性もうろう状態の確認には脳波が欠かせません
 さらに、発作が止まってしまっていても、けいれんのすぐ後であれば、脳波をとる意味があります。発作によって脳が疲れ、遅い波がでていることがあるからです。脳のエネルギーを消耗させるような何かが起きたことを示唆する所見です。こうした「遅い」波は熱性けいれん後1週間近くまでみられます。
 しかし、急性期を過ぎて、一週間後、一ヶ月後になると、脳波の価値はずっと下がってしまいます。
 この時期に脳波をとる理由としては2つ考えられます。
 一つは、熱性けいれんをきたす原因として脳の異常が隠れていないかどうかの確認です。とくに、けいれんが長引いたり、何度も起こったりといった複雑型熱性けいれんのお子さんの場合、気になるところです。しかし、脳の構造異常の確認に、脳波はあまり役に立ちません。それまでの発達歴や神経学的所見の方がよほど、脳の構造異常の有無の判定には役に立ちます。そして、もし、それらで何か疑われるのであれば、脳波ではなくMRIなどの画像検査や染色体検査などの血液検査をやるべきです。
 もうひとつ、将来、てんかんにならないかどうかを脳波で予測できるのではないかという期待もあるでしょう。ところが、こちらも、残念ながら、期待どおりにはいきません。
 熱性けいれんでは脳波によるてんかん発症の予測がうまくいかないのです。それに、万が一予測できたとしても、続発てんかんの予後改善にはつながりません。
 熱性けいれんのない子に比べ、熱性けいれんのある子は脳波異常、とくに、てんかん放電がでやすいのは事実です。とくに、3歳、4歳と齢を重ねるごとにてんかん放電がみられる頻度が高まります。しかし、てんかん放電がみられるからといっててんかんを発症するとは限りません。一部の子がてんかんを発症するだけです。熱性けいれんの子にみられる典型的な脳波異常として睡眠中、中側頭部に頻繁に現れるローランド棘波があります。この脳波異常がみられるお子さんは、口がゆがみ、よだれが出るシルビウス発作や全身けいれんを起こすことがあります。しかし、前にも言いましたように、この異常脳波はてんかん性素因を表していて、てんかん発作を起きないお子さんも半数ぐらいみえます。これは、熱性けいれんのお子さんでも変わりません。脳波異常がみられたからといっててんかんになるとは限らないのです。
 その一方で、脳波上、てんかん放電がみられない子にも、てんかんが発症することがあります。
 このように、脳波はてんかん発症の予測に関して、あまり当てになりません。
 それに、脳波によっててんかん発症が予測できたとしても、それで、そのてんかんの予後をよくすることはできません。発作が起きると脳波できちんと予測できるわけではありませんから、早めに薬を飲むわけにはいきません。脳波で予測しておいて、発作が出た時点で即座に薬を飲み始めたからといって、発作が止まりやすくなるというデータもありません。むしろ、脳波にてんかんの波があると言われて、保護者の方が自分のお子さんがてんかん発作を発症するのではないかといつもビクビクしなくてはならなくなります。無駄な心配をするより、何もしない方がましです。無熱性のてんかん発作を繰り返すようになったら、その時点で、脳波を検査し、必要なら、治療を開始すればいいだけの話です。
 というわけで、熱性けいれんの子で脳波をとる必要はあまりない、と現在のところ考えられています。

画像検査

 脳波の時に述べたように、けいれんの原因として、脳の異常がないことを確認するには頭部CTやMRIが大変役に立ちます。とくに、けいれん前やけいれん中に頭を打った可能性がある場合、あるいは、目の動きがおかしい、大泉門が張っているといった頭の中の圧力が高まっていることを示唆する症状がみられたときには、画像検査をやってみるべきでしょう。しかし、それまで順調に育ってきた子に単純型熱性けいれんがみられ、発作のあとのボンヤリした状態からすぐに回復して平気な顔をしている場合にまでそうした検査をするのは、ちょっと、考えものです。異常がみつかる可能性が、まず、ないからです。CTでは通常のレントゲン検査の数倍の量の放射線を浴びることになります。一方、MRIは時間がかかるために、小さいお子さんですと、眠り薬で寝てもらわなくてはいけません。しかし、これが、絶対安全とはいえません。それなのに、異常所見がみつかる可能性がほとんどないのですから、割が合いません。もし行うとしたら、片側けいれんのような明らかな焦点性発作がみられたときや、遷延性発作がみられたときだけでしょう。その場合、CTよりもMRIのほうがおすすめです。放射線を浴びずにすみますし、異常所見の検出率も高いからです。

血液検査

 熱性けいれんに対する血液検査としてはナトリウム、カルシウム、リン、マグネシウムといった電解質、あるいは、血糖、白血球数などの測定が考えられます。しかし、必須ではありません。たしかに、電解質異常や低血糖でけいれんが起きることがあります。しかし、きわめてまれです。病歴からそうした異常が疑われるときだけ行えばすむことです。たとえば、吐いて、ひどい下痢をしてといった場合です(その場合、電解質に加え脱水の程度を測るためにBUNも測定した方がいいでしょう)。それに、そうした場合、細菌性髄膜炎の時のように、電解質以上や低血糖に特有の症状もみられるはずです(ただし、一般に熱性けいれんのお子さんは、とくに症状もないのに、ナトリウム濃度が低いというデータがあります。ですから、熱性けいれんのお子さんにやたらとお水を飲ますのはやめた方がいいかもしれません。飲ますのであれば、せめて、スポーツ飲料にすべきです)。
 少なくとも、単純型熱性けいれんのお子さんで、病歴や付随症状から何か疑われることがないお子さんにまで針を刺して血液を採る必要はありません。
 それに、血液検査をやるのは、ほとんどが、けいれんの原因ではなく、熱の原因を探るのが目的です。しかし、その場合でも、対象となるのは、たんなる熱性けいれんではないと思われる、複雑型熱性けいれんのお子さんがほとんどです。
 ちなみに、血液に細菌が入る菌血症は高熱の子に多いことが知られています。熱性けいれんでは高熱のことが多いですし、その上、けいれんまで起こっているので、熱性けいれんの子には菌血症が多いように思われがちです。しかし、同じような熱の高さであれば、菌血症は熱性けいれんの子にとくに多いわけではありません。けいれんを伴わない高熱のお子さんの菌血症の頻度と変わりません。菌血症の子は白血球数が高いことが知られていますが、熱性けいれんだからといって白血球数を測り、血液の培養をしなくてはならないということではありません。やはり、他の症状も勘案して判断すべきことです。

ウイルス感染症、細菌感染症の迅速検査

 熱性けいれんの発熱はさまざまなウイルスや細菌によって引き起こされます。現在、インフルエンザウイルス、ロタウイルス、溶血性連鎖球菌などさまざまな微生物を鼻やのどの拭い液や、便などを使ってに素早く調べることができます。数十分程度で測定でき、その場で結果を知ることができることから、迅速検査と呼ばれています。発熱の原因を調べるために、時として、こうした検査が行われることもあります。

▲このページの一番上へ戻る

治療

 熱性けいれんの治療は2つにわけて考えると整理しやすいでしょう。
 ひとつは熱性けいれんが起きた直後の急性期治療、もうひとつが、再発防止のための予防的治療です。

急性期治療

 最初に申しましたように、熱性けいれんを起こしたお子さんのほとんどは、救急外来におみえになった頃には発作が止まっています。ボーッとしていたり、眠っていたりと発作後の症状はさまざまですが、いずれにしても、発作そのものに対する治療は、とりあえず、必要ありません。
 このように、熱性けいれんでは、発作そのものに対しては、治療する必要がないことがほとんどです。
 同様のことが、熱の原因についてもいえます。
 熱性けいれんにおける発熱の原因は突発性発疹症などのウイルス感染症がほとんどです。何もしなくても、自然に熱はおさまります。せき、鼻水などの付随症状も消えていきます。さらに、細菌感染と違い、ウイルス感染は抗生物質が効きません。インフルエンザ、ヘルペス、RSウイルスなどを除くと、ウイルスの増殖を抑える薬はなく、発熱に対しても、解熱剤で症状の軽減を図るぐらいのことしかできません(ちなみに、解熱剤にはけいれんそのものにたいする予防効果はありません)。
 しかし、まれに、けいれんがいつまでも止まらず、救急外来におみえになったときもまだけいれんが続いていることがあります。もちろん、そんな場合は、一刻も早くけいれんを止める必要があります。静脈に針を留置して点滴ルートを確保し、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)やミダゾラム(ドルミカム,ミダゾラム)といったベンゾジアゼピン系注射液を静脈内に入れてけいれんを止めます。数十分程度のけいれんならまだいいですが、何時間もけいれんが続くと、前に申した片側けいれん-片麻痺-てんかん症候群のように、後遺症を残すおそれがあります。
 重積状態の熱性けいれんのほとんどは、ジアゼパムやミダゾラムの静注によって抑えることができます。こうしたベンゾジアゼピン薬剤が万が一無効であっても、フェノバルビタールやフェニトインなどの注射液があとに控えています。よほどのことがない限り,遷延する熱性けいれんは止めることができます(止まらなければ、髄膜炎、脳腫瘍、乳児重症ミオクロニーてんかんなどの重篤な疾患が隠れている可能性があります)。
  

再発防止
 
熱性けいれんの3分の2は、再発しません。再発するのは残りの3分の1だけです。この3分の1を多いとみるか少ないとみるか、発作の形にもよりますから、判断が難しいところです。
 再発の危険因子が色々あることはさきほど述べました。しかし、もしそれらを考慮に入れたとしても、もう一度発作を起こすかどうか、正確に言い当てることはできません。

<抗てんかん薬の連日服用>

 それでも、とにかく、わが子のひきつけるさまをもう二度とみたくない、ということでしたら、抗てんかん薬を連日服用するのが一番確実です。実際、数十年前までは、熱性けいれんに対する治療として抗てんかん薬を連日服用することが一部の患者さんで行われていました。フェノバルビタール(フェノバール,ルミナール)やバルプロ酸(デパケン、ハイセレニン、セレニカR)を毎日服用すると無投薬の場合に比べ再発率が下がることがわかっています。最終発作から1-2年,または,4-6歳までを目安として薬を飲み続ける、というのが標準的服用法です.
 しかし、現在では、こうした熱性けいれん予防再発のための抗てんかん薬の連日服用は、ほとんど、行われていません。
 抗てんかん薬の副作用や抗てんかん薬を飲み続ける手間を考えると、割にあわないからです。有効といっても、抗てんかん薬の連日服用によって熱性けいれん再発を完全に阻止できるわけではありません。初回熱性けいれんの再発率は30%強ですが、それを10%前後に下げられるにすぎません。それに、3分の2の確率で、飲まなくても、発作は起きないのです。副作用を考えると、少なくとも、一回目の熱性けいれん後に始めるべき治療法とは思えません。しかし、それでも、どうしても次回発作を阻止したいのであれば、次に述べる間欠的投与という方法があります。こうしたことから、現在は、きわめて限られた熱性けいれんの患者さんにしか抗てんかん薬の連日投与はなされていません。たとえば、遷延する熱性けいれんを何度も繰り返していて、次に述べるジアゼパムの間欠投与でも再発を抑えられないようなお子さんです。

<発熱時の抗てんかん薬使用による再発予防>

 なんの前触れもなく発作が起きるてんかんと異なり、熱性けいれんでは発熱という危険信号が点灯します。そこで、危険信号が発せられた時点で、抗てんかん薬を使えば、もしかしたら、発作が予防できるのではという考えが当然出てきます。 
 ところが、これが意外と難しいのです。
 まず、熱に気づいたとき、確実に薬を体の中に入れなくてはなりません。しかし、熱があり、不機嫌で、食欲もおちている赤ちゃんや小さなお子さんは薬を飲んでくれないかもしれません。飲んでくれなければ、口以外から薬を入れるしかありません。一般的には、口の反対側、肛門から座薬を入れます。
 しかし、うまくお尻から入れることができても、薬が直腸粘膜からすばやく吸収され、けいれんを起こさないだけの脳内濃度に到達して抗けいれん作用を発揮してくれなくては困ります。熱性けいれんの2割は発熱してから1時間以内に発作が起きますから、せめて10分か20分で体内に吸収され、十分な脳内濃度に達する薬が望まれます。
 このような条件にかなうものが、ジアゼパムです。日本では、ダイアップ座剤(4mg、6mg、10mgのものがあります)という名前でジアゼパムの座薬製剤が発売されています。抗てんかん薬の座薬としては、もう一つ、ワコビタール座薬がありますが、これは、フェノバルピタールの座薬製剤です。フェノバルビタールはジアゼパムのように素早く有効濃度に達しませんので、熱性けいれんの予防には不適切です。
 このダイアップ座剤を熱に気づいてすぐにおしりに入れると、熱性けいれんの再発率が3人に1人、すなわち、約3割から、10人に1人、1割に低下します。
 たしかに、有効なのです。
 しかし、現在、この方法も、あまり、推奨されていません。
 なぜかといいますと、まず、「熱に気づいたとき」というのが曲者なのです。
 口で言うのは簡単ですが、熱に気づいてからダイアップ座薬を肛門にいつもうまく挿入できるとは限りません。
 まず、熱に気づかない可能性があります。けいれんを起こしてはじめて熱に気づかれることが熱性けいれんではめずらしくありません。
 さらに、熱に気づいても、肝腎のダイアップ座薬が手許にないかもしれません。あっても、処方されてから年数がたっていて、使用期限が切れているかもしれません。
 そんなこんなで、熱に気づいても、座薬を入れられないかもしれないのです。そして、そうした例も入れると、ジアゼパム座薬を処方された場合の熱性けいれん再発率は、処方されていない場合とたいして変わらないという報告がなされています。
 さらに、副作用の問題があります。
 昔、発熱時のダイアップ座剤挿入が熱性けいれんの予防として行われ始めた頃は、発熱に気づかれた時点で一回ダイアップを挿入し、8時間後、まだ、熱があったら、もう一回、挿入するという方法が推奨されていました。そうすれば、ジアゼパムの抗けいれん効果を24時間保つことができ、熱性けいれん再発をかなりの確率で防ぐことができるはずだからです。
 しかし、これをきちんとやろうとすると、大変です。熱があるうえに、ダイアップのせいで眠気がひどく、ふらつき気味、ぐったりして、ご飯も食べられません。逆に、異常に興奮することもあります。こんな副作用が10人のうち4人にみられます。発作が起こさないようにするために、本当にここまでやらなくてはならないのか、かなり、疑問です。それに、薬でボーッとしているため、髄膜炎の症状と見間違えるおそれもあります。だいいち、もともと、何もしなくても、3分の2の確率で、発熱しても発作は起きないかもしれないのです。とても、きちんとやってみる気にはなりません。
 そんなわけで、現在、単純型熱性けいれんでは、ダイアップ座薬の間歇投与は行いません。
 しかし、では、複雑型熱性けいれん、とくに、いつまでもけいれんが止まらないような場合、どうすればいいんだ、という心配が残ります。
 てんかん発作が止まらないとき、前に述べたように、病院では、患者さんの静脈内に針もしくはカテラン針を刺し、ダイアップの主成分であるジアゼパムの注射液(セルシン、ホリゾンなど)を血管に入れて、発作を頓挫させます。しかし、もちろん、家では注射はできません。そこで、速効性を考えるなら、ジアゼパムの注射液を直腸に入れるのが次善の策ということになります。ジアゼパムはすぐに直腸粘膜から吸収されて血液内に入り、脳内に取り込まれます。そして、直接、血管に入れた場合と遜色がないほどの抗けいれん作用を発揮します。今では、これで十分ということになっています。しかし、日本では直腸挿入用ジアゼパム液は市販されていません。代わって、ダイアップ座薬を入れます。しかし、ジアゼパム液ほど吸収が早くありません。ですから、けいれんが長引いていれば(3分以上であれば、長いといっていいいでしょう)、まず、救急車を呼び、そのあと、ダイアップ座薬を入れ、最寄りの総合病院に連れて行ってもらうことになります。
 ということで、熱性けいれんの予防法は、まだ、きちんと定式化できていません。再発する危険性、再発した場合の影響がお子さんによって異なるためです。たとえば、1歳未満の赤ちゃんであれば、再発する可能性は5歳の幼児に比べ高いでしょう。前回、何十分もの長いけいれんで、救急車で病院を受診、何とかけいれんを止めてもらったのであれば、次回のけいれんはなんとしても止めたいでしょう。そうした個々の事情を考慮して定式化したガイドライは、残念ながら、まだ、できていません。今のところ、どの国のガイドラインでも意見が一致しているのは、単純熱性けいれんが1-2回起こしたからといって予防する必要はないということだけです。
 Shinnarは遷延する熱性けいれん、一回の発熱時に何度もけいれんを起こす熱性けいれん、年齢などの理由から再発の可能性が高い熱性けいれん、離島のように緊急時にすぐには医療機関が受診できないかもしれないお子さんの熱性けいれんに対しては、再発予防のために、あるいは、けいれん発生時にジアゼパムの直腸内投与をしてもいいのではないかと書いています。たしかに、そのあたりが一番常識的な意見かもしれません。
 ちなみに、前にも申しましたが、解熱剤にはけいれんを止めたり、予防したりする力はありません。もちろん、熱が高く、不機嫌だと、熱を下げてあげたくなることはあるでしょう。しかし、その場合でも、ジアゼパム座薬を使うのであれば、30分は解熱剤の座薬を入れるのを待って下さい。あまり早く入れるとジアゼパムの吸収が遅れてしまうからです。順番として、ジアゼパム座剤が先、解熱剤が後です。


表 2 熱性けいれんの再発予防に対して試みられた治療法(Knudsen PU (2002)を改変)

投与方法

薬剤

効果

持続投与

フェノバルビタール

有効

バルプロ酸(デパケン、ハイセレニン、セレニカR)

有効

発熱時

間欠的投与

ジアゼパムの服用、直腸内投与
(セルシン、ホリゾン、ダイアップ座剤)

有効

ジアゼパム以外のベンゾジアゼピン薬剤(ニトラゼパム、クロバザム、ミダゾラム)の服用または
直腸内投与

おそらく有効であろうが、データがほとんどない

抱水クロラ-ル(エスクレ座薬)

有効という報告はあるが,データがほとんどない

発作開始後
投与

ジアゼパム注腸(日本にはない)

対照群を設定しない試みで有効という報告がある

ジアゼパム座剤(ダイアップ座剤)

有効だが、効果発現に20-30分かかる

ミダゾラムの頬粘膜、鼻腔内投与

おそらく有効であろうが、データがほとんどない

▲このページの一番上へ戻る

予防接種

 熱性けいれんをもつお子さんの親御さんが心配されることの一つに、予防接種があります。この子は熱でひきつけるから、予防接種ができないのではないか、という相談をよく受けます。
 心配の原因は2つあるだろうと思います。一つは、予防接種の副作用で熱がでて、再び、ひきつけるのでは、という恐れです。そして、もう一つは、予防接種によってきわめてまれに認められる脳症が、熱性けいれんがあると起こりやすいのではないか、という不安です。

 しかし、いずれについても、ほとんど心配する必要はありません。熱性けいれんがあるからといって、予防接種ができないということはありません。むしろ、熱性けいれんがあるからこと、予防接種は積極的におこなうべきです。
 たしかに、予防接種によって熱がでることがあります。そして、その熱によってひきつける危険性がないとはいえません。
 とくに、百日咳とはしかのワクチンは、熱がでやすいこともあって、けいれんを引き起こしやすいことが知られています(表3)。しかし、起こしやすいといっても、その数は、ごくわずかです。たとえば、百日咳ワクチンを含んだ3種混合ワクチンの場合、ワクチンを10万人にうって熱性けいれんが6~9人増える程度と試算されています。つまり、熱性けいれんが起こる確率は1万人に1人にも満たないのです。しかも、3種混合ワクチンは昔に比べ改善され(改良型沈降精製DPTワクチン(1981年))、発熱の副作用がほとんどみられなくなっています。

 はしかワクチンも熱性けいれんを誘発することがあります。しかし、けいれんが起こると推定されるのは10万人に16人程度です。やはり、きわめてまれといっていいでしょう。はしかにかかり、高熱を発した方が、よほどひきつけやすいのです。その上、はしかになれば、脳炎、脳症、肺炎などの重篤な合併症の危険性があります。それを考えれば、ワクチンで予防した方がいいのは明らかです。

 同じことは、3種混合ワクチンを含め、他の全てのワクチンについてもいえます。

 しかし、それでも心配、という方がみえるかもしれません。その場合には、表3に示したように、発熱が予測される時期に抗痙攣剤で予防するという手もあるので、予防接種の時、相談なさって下さい。

 最近、肺炎球菌ワクチン、ロタウイルスワクチンなどうつべきワクチンの種類が増えました。そして、そうしたワクチンをなるべく早く行うために、同時接種が増えています。いろいろなワクチンをいっぺんにうつと、副作用も相乗効果で増え、熱性けいれん再発の可能性も増えるのではないかと心配されるかたもみえるかもしれません。しかし、これに関しても、あまり心配する必要はありません。たとえば、従来のDPT三種混合ワクチンにインフルエンザ菌ワクチン(Hibワクチン)を同時に行った場合の熱性けいれん出現の危険性は10万人に対して4未満という報告がなされています。やはり、かなり、まれです。しかも、このワクチンは3回行いますが、回を経るごとに発生頻度は下がり、3回目で発作が誘発される確率はゼロに近づきます。

 つぎに、ワクチンによる脳症の問題です。

 きわめてまれですが、ワクチン接種後に、けいれんが止まらなくなったり、意識が低下し、その後、知能や運動機能低下がするお子さんがみえます。意識が低下し、ひどいけいれんが起こり、知能障害や運動障害が後遺症として残ります。脳に何らかの変化が起きている可能性があるというので、脳症と呼ばれています。これがワクチンによる脳症です。しかし、ワクチンによる脳症はきわめてまれです。100万人に1人にも満たないといわれています。

 しかも、そうしたまれなワクチン脳症が本当にワクチンが原因なのかさえはっきりしないことがあります。

 というのは、ワクチンを接種していないお子さんにも、ワクチンのあとにみられるものと同じような脳症が起こるからです。つまり、ワクチン後に特徴的な臨床症状、臨床経過を示す脳症があるというわけではないのです。たとえば、日本脳炎ワクチン後には急性散在性脳脊髄炎(ADEM)という、神経線維を包む髄鞘という組織がはげ落ちてしまう疾患がみられるとされています。しかし、ADEMは日本脳炎ワクチンを接種していない子にもみられますし、それらは日本脳炎ワクチン後のADEMと臨床症状、画像所見、臨床経過から区別をつけることができません。日本脳炎後のADEMにはワクチンを接種しなくても発症したお子さんも中に混じっているのかもしれないのです。ワクチン脳症にはこうした「まぎれ込み」例が必ずいると考えられています。

 じつをいいますと、ワクチン脳症は、ワクチンを接種してすぐに発症したという時間的経過以外、診断根拠がないのです。

 しかも、ワクチン後何日以内に発症すればワクチン脳症といえるのかもわかっていません。この点もワクチン脳症というものの存在を怪しげなものにしています。

 ワクチン脳症というのはまれであるばかりでなく、実態がはっきりしない病態なのです。

 さらに、熱性けいれんがあるからワクチン脳症になりやすいということもありません。

 その上、最近、ワクチン脳症の存在をさらに疑わせる事実がわかってきました。

 ワクチン後脳症と診断されたお子さんの血液検査をすると、神経細胞膜のナトリウムチャンネルに関与するSCN1Aという遺伝子の変異が高率にみられるという報告があいついでいるのです。このSCN1A遺伝子変異というのは乳児重症ミオクロニーてんかんによくみられる異常です。じっさい、SCN1A遺伝子異常のあるお子さんの「ワクチン脳症」の臨床経過は、乳児重症ミオクロニーてんかんにそっくりなことが少なくありません。
 乳児重症ミオクロニーてんかんは、それまで、順調に発育していた赤ちゃんに発症します。たいていは、熱による遷延性けいれんが初発症状です。しかも、熱性けいれんのような高熱ではなく、38℃台の比較的低い熱で発作が起きます(お風呂にはいったときのわずかな体温の上昇で発作が言う発されることもあります)。そして、その後、長いけいれんを繰り返すようになり、ピクツキや、ボーッとする発作が日に何度も起きるるようにもなります。さらに、ふらつきをはじめとして運動機能異常がみられるようになり、知的にも退化していきます。この重症乳児ミオクロニーてんかんの、最初の長いけいれんが予防接種による発熱で誘発されることがあります。当然、長引くひどいけいれんが起きます。そして、その後、けいれんを繰り返し、運動面でも知的面でも後退していきます。このため、ワクチンによる脳症と勘違いされる可能性があるのです。

 こうした例を除くと、ワクチン後の脳症がどのぐらいになるのか、まだ、よくわかっていません。しかし、相当にまれであろうということだけはたしかです。

 じつを言いますと、平成7年までは、予防接種法という法律で、けいれんを起こしてから1年以内は予防接種が禁じられていました。1970年代、種痘に関連した脳症や百日咳ワクチン後の死亡例などから、ワクチンが疑惑の目でみられるようになりました。そうした中、なるべく、予防接種による副作用が起こらないようにするために、熱性けいれんを含め、けいれんの既往のあるお子さんの予防接種は用心してうとうということになりました。こうして、「まぎれ込み例」を少なくするため、最後の発作から1年は予防接種は見合わせることになったのです。そのことを覚えてみえる方、あるいは、そのことをおじいさんやおばあさんなどから伝え聞いてみえる方は、熱性けいれんのある子にとって予防接種は怖いものだと感じてみえるかもしれません。しかし、その後、予防接種法が改正され、表3にあるように、そうした制限はほとんどなくなりました。

 本当のところを言いますと、最後の発作からどれだけ間隔を置けば安全なのかもよくわかっていないのです。

 一応、最後の発作から2ー3か月を開けて予防接種をすることになっていますが、2週間も開ければ十分と判断されることもあります。それに、てんかんのお子さんの中には、日に何度も発作を起こす場合があります。そうしたお子さんでは、永遠に予防接種ができないことになってしまいます。しかし、実際には、そうしたお子さんこそ、はしかや百日咳にかかった時、けいれんがさらに頻発し、大変です。ですから、その日に発作が起きていても、十分に保護者の方に説明して、予防接種をおこなっています。

 逆にいうと、1年以上開けなければいけない、というかつての方針も確固たるデータに基づいたものではなかったのです。

 どんな状態でも予防接種が大丈夫というわけでは、もちろん、ありません。しかし、熱性けいれんがあるからといって、必要以上に予防接種を恐れる必要もないのです。
 

表 3 熱性けいれんの既往がある小児の予防接種 日本小児神経学会の見解(平成15年5月)

1. 予防接種の実施の際の基本的事項
現行の予防接種はすべて行って差し支えない。ただし,接種する場合には次のことを行う必要がある。

保護者に対し,個々の予防接種の有用性,副反応(発熱の時期やその頻度他),などについての十分な説明と同意に加え,具体的な発熱時の対策(けいれん予防を中心に)や,万一けいれんが出現した時の対策を指導する。

2. 接種基準
熱性けいれんと診断された場合は,最終発作から2~3カ月の観察期間をおけば1.の条件のもとで接種可能である。
ただし,接種を受ける小児の状況とワクチンの種別により,主治医の判断でその期間の変更は(短縮も)可能である
長時間けいれん(15分以上発作が持続)の既往例は,小児科専門医ないし小児神経専門医が診察しその指示のもとで施行する。 

3. けいれん予防策

発熱の予測される予防接種では,発熱の出現しやすい時期に発熱を認めたらジアゼパム坐剤を予防的に投与する。ただし予防投与の必要性や下記用法,用量は,主治医(接種医)の判断によって,患者ごとに変更しうる。発熱率の比較的高いのは麻しんで,時期は接種後1~12日(特に7~10日),ついでDPTでその時期は1~6日(特に1~2日)である(接種日を0日とする)。

座薬:ジアゼパム座剤(製品:ダイアップ座剤4mg、6mg、10mg) 
用法:37.5℃以上の発熱を目安に,速やかに直腸内に挿入する。初回投与後8時間経過後もなお発熱が持続する時は,同量を追加投与してもよい。通常,2回以内の投与で終了とする。状況判断で,3回目投与を行ってもよいが,3回目は初回投与から24時間経過後とする。

坐剤がない場合はジアゼパム経口剤(製品:セルシン,ホリゾン;散,錠,シロップ)でもよい。投与量は同量で,薬物動態は坐剤とほぼ同じである。

解熱剤の併用:ジアゼパム坐剤と解熱剤の坐剤を併用する場合にはジアゼパム坐剤投与後少なくとも30分以上間隔をあける(解熱剤の坐剤の成分がジアゼパムの吸収を阻害する可能性があるため)。経口投与をする解熱剤は同時に併用してもよい。ジアゼパム投与で,眠気,ふらつき,極くまれに興奮などがみられることがある。

予防投与の必要性や用法,用量は,主治医(接種医)の判断によって変更してよい。


▲このページの一番上へ戻る

最後に……

 医療関係者向けの本には、熱性けいれんの急性期の「治療」としてもっとも大切なことは、保護者の方に良好な予後も含めた熱性けいれんの一般像を口頭および(もしくは)文書で説明し,安心してもらうことだ、と書いてあります。何度も申してきたことですが、初めて我が子のけいれんする姿を目にした家族の方の心の動揺はかなりなものがあります。しかし、まずは、その衝撃を和らげていただくことが熱性けいれんの最良の「治療法」です。なるほど、まれに、細菌性髄膜炎、脳炎、乳児重症ミオクロニーてんかん、側頭葉内側葉硬化てんかんが熱性けいれんに隠れていることがあります。しかし、それは、たとえ複雑型熱性けいれんであっても、きわめてまれです。激烈な症状からは想像できないくらい、熱性けいれんは良性の疾患です。そのことを、しつこいようですが、強調しておきたいと思います。少なくとも、けいれんを恐れてお子さんの行動を制限するようなことだけはなさらないで下さい。

▲このページの一番上へ戻る

文献

1. Aso K et al. Temporal lobe epilepsy of childhood onset. Jpn J Psychiatr Neurol 48: 21-220, 1994.

2. Baram TZ, Shinnar S ed. Febrile seizures. Academic Press. Sandiego, 2002.

3. Berkovic SF, Harkin L, McMahon JM, et al. De-novo mutations of the sodium channel gene SCN1A in alleged vaccine encephalopathy: a retrospective study. Lancet Neurol. ;5:488?492, 2006

4. Caroll W, Brookfield D. Lumbar puncture following febrile convulsion. Arch Dis Child 87:232-240, 2002.

5. Cuestas E. Is routine EEG helpful in the management of complex febrile seizures ? Arch Dis Child 2004;89. 290

6. Curtis S, Stobart k, Bandermeer B, Simel DL, klassen T. Clinical features suggestive of meningitis in children: a systematic review of prospective data. Pediatr126: 952-960, 2010

7. Dube CM, Brewster AL, Baram TZ. Febrile seizures: Mechanisms and relationship to epilepsy. Brain Dev 31: 366-371, 2008Heida JG, Moshe SL, Pittman QJ. The role of interleukin-1s in febrile seizures. Brain Dev 31:388-393, 2008.

8. Finn A. More lumbar punctures, please! Arch Dis Child 2003;88:177

9. Gordon KE, Dooley JM, Camfield PR, Camfield CS, MacSween J. Treatment of febrle seizures: the influence of treatment efficacy and side-effect profile on value to parents. Pediatr;2001: 108, 1080-8.

10. Nordli DR Jr, Moshe SL, Shinnar S, Hesdorffer DC, Sogawa Y, Pellock JM, Lewis DV, Frank LM, Shinnar RC, Sun S; FEBSTAT Study Team. Acute EEG findings in children with febrile status epilepticus: results of the FEBSTAT study Neurology. 2012 Nov 27;79(22):2180-6.

11. Green SM, Rothrock SG, Clem KJ et al. Can seizures be the sole manifestation of meningitis in febrile children? Paediatr 92:527-34, 1993. 

12. Heida JG, Moshe S, Pittman QJ. The role of interleukin-1βin febrile seizures. Brain Dev 31:388-93, 2009.

13. Jones T, Jacobsen SJ. Childhood febrile seizures: Overview and implication. Int J Med Sei 4: 110-114, 2007

14. Kimia AA, Capraro AJ, Hummel D et al. Utility of Lumbar Puncture for first simple febrile seizure among children 6 to 18 monts of age. Pediatrics 123 : 6-12, 2009.

15. Kimia AA, Ben-Joseph EP, PRudloe T et al. Yield of lumbar puncture among children woh presents with their first complex febrile seizure. Pediatr 126:62-9, 2010

16. Kimia A, Ben-Joseph PB, Rudloe T, Caprato A, Sarco D et al. Yield of lumbar puncture among children who present with their first complex febrile seizure. Pediatr 126: 62-69, 2009.

17. Kneen R, Solomon T, Appleton R. The role of lumbar puncture in suspected CNS infection - disappering skills ? Arch Dis Child 87:181-3, 2002

18. Offringa M, Moyer VA. Evidence based paediatrics: evidence based management of seizures associated with fever. BMJ 2001;323:1111-4

19. Provisional Committee on Quality Improvement and Subcommittee on Febrile Seizures. Practice Parameter : the Neurodiagnostic evaluation of the child with a first simple febrile seizure. Pediatr;1996:97, 769-72 

20. Riordan FA, Cant AJ. When to do a lumbar Puncture. Arch Dis Child 2002;87:235-7

21. Rosman NP, Colton T, Labazzo J, Gilbert PL, Gardella NB et al. A controlled trial of diazepam administered during febrile illnesses to prevent recurrence of febrile seizures. N Engl J Med 1993;329:79-84. 

22. Shinnar S ed. Evaluation and management of simple and complex febrile seizures. A CME Web-Based Monograph.

23. Shorvon S, Berg A Pertussis vaccination and epilepsy: an erratic history, new research and the mismatch between science and social policy. Epilepsia.2008;49(2):219?225

24. Steering Committee on Quality Improvement and Management, Subcommittee on Febrile Seizures. Febrile seizures: Clinical practice guideline for the long-term management of the child with simple febrile s eizures. Pediatrics 121: 1281-1286, 2008

25. Sun YChristensen JHviid ALi JVedsted POlsen JVestergaard MRisk of febrile seizures and epilepsy after vaccination with diphtheria, tetanus, acellular pertussis, inactivated poliovirus, and Haemophilus influenzae type B..1001 JAMA 307:823-31, 2012

26. Subcommittee on Febrile Seizures. Febrile seizures: guideline for the neurodiagnostic evaluation of the child with a simple febrile seizures. Pediatr 127: 389-394, 2012

27. Taku T, Sugino S, Hohtani Y, Miike T. Ictal EEG in febrile convulsions: a case report. Brain Dev 13:207, 1991 (abstract)

28. Tarkka R, Paakko E, Pyhtinen J, Uhari M, Rntala H. Fbrle seizures and mesial temporal sclerosis : no association in a long-term follow-up study. Neurol 60:215-8, 2003.

29. Tenney JR, Schapiro MB. Hemiconvulsion-hemiplegia-epilepsy syndrome. Neurology 2012;e1-e4.

30. Tonia Jones, Steven J. Jacobsen. Childhood Febrile Seizures: Overview and Implications. Int. J. Med. Sci. 2007, 4

31. VanLandingham KE, Heinz ER, Cavazos JE, Lewis DV. Magnetic resonance imaging evidence of hippocampal injury after prolonged focal febrile convulsions. Ann Neurol 43:413-26, 1988

32. Verity CM, Greenwood R, Golding J. Long-term intellectual and behavioral outcomes of children with febrile convulsions. N Engl J Med 1998;338, 1723-8.

33. Verity CM. Do seizures damage the brain ? The epidemiological evidence. Arch Dis Child 1998;78,78-84

34. Waruiru C, Appleton R. Febril seizure: an update. Arch Dis Child 89:751-756, 2004.

35. Cendes F, Sanker R. Vaccinations and febrile seizures. Epilepsia 52 (Suppl 3):23-25, 2011

36. 麻生幸三郎.側頭葉てんかん-小児科の立場から- 小児内科 27:107-115,1995

37. 高橋泉、渡辺一功,山本直樹、古根淳、麻生幸三郎ら. 熱性けいれんにおける発作症状の分析. 小児科臨床 40:27-30,1987

38. 荻原正明ら.脳波から.小児科診療 64, 326-331, 2001. 

39. 福山幸夫、関亨、大塚親哉、三浦寿男、原美智子.熱性けいれんガイドライン.小児科臨床 49: 17-25, 1996

40. 前原光夫 熱性けいれんの発作時脳波 臨床脳波 30:478-80,1988

41. 山本美和、小西徹、本郷和久、八木信一、谷森正ら. 熱性けいれんの発作症状に関する検討―発作直後の家族問診票より―. 小児科臨床 49:240-244、1996

42. 十川佳美、呉本慶子、大山昇一、高橋系一.熱性けいれんと予防接種. 小児科臨床 64:376-9、2001

▲このページの一番上へ戻る